そうねだいたいね

窮鼠はチーズの夢を見るのそうねだいたいねのネタバレレビュー・内容・結末

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

原作未読。探偵の渉の元に昔好きだった先輩・恭一の妻・知佳子から不倫調査の依頼が来ることと、恭一が夏生と再会するという偶然な展開以外は動機や理由などにそれなりの説得力があり、始まって20分以降から安心して観れる映画という印象を持った。

【以降は気になった点を細かく(1度しか鑑賞していないので、あくまで個人的解釈)】

探偵である渉が恭一の不倫の証拠を破棄する代わりにキスやセックスを要求するのは動機として説得力があるが、いくら夫婦関係を守るのが目的であっても、その要求をすんなり受け入れる恭一に無理があるような。というのは、学生時代に渉がその気があったというような疑惑があればまだ分かるが、夏生から学生時代に渉は恭一のことが好きだったとピンクのジッポを理由に告げられた時(ちなみにジッポはこじつけ過ぎる)、「え?どうして?」と返答してる辺り恭一は渉の恋心には気付いてなかったわけで、それどころか自分は渉から嫌われてると思っていたのに、それらを受け入れるのはどうかと。だったら、大学時代から渉が自分に好意があったことを何となく感じていたという設定か、要求されて戸惑う場面が多少あっても良かったんじゃないかとは思った。

シャワーを浴びている最中の知佳子に恭一が帰宅したことを告げるシーンだけで2人の夫婦関係が破綻していることを見せるのは台詞で語らないという意味ではお見事。ただ、その後の2人のデートで知佳子が恭一に興信所に不倫調査の依頼をしていたこと、1年以上付き合ってる不倫相手がいることをセットで告げるのはちょっとどうかと思った。離婚の説得をする為とは言え、不倫相手のことを1年以上隠してて、しかも興信所に不倫調査を依頼して慰謝料請求しようとしてたクソ女だぜ?離婚手続きで不利になり、自分が慰謝料を請求される可能性もあるし普通は最後まで隠蔽するだろ。恭一からは不倫の証拠は出てこず、1年以上不倫をしていて慰謝料を請求しようと企んでた自分が情けなくなったから言ったとしても相当なクズ女。ただ知佳子は知らないが、恭一も事実不倫してるので、それ以上知佳子の不倫を追求せず離婚したと思われる。

恭一と渉が屋上で乳首当てゲームをしているのを、やや隣の建物の屋上で洗濯物を干してるババアが前のめりになって見るカットは絶対いらねぇ。なんであんなカット入れたん??恭一を巡って渉と夏生の恋バトルを勃発させるシーンも絶対要らない。そもそも夏生というキャラ自体不必要やし、夏生の台詞が今作のテーマを分かりやすいくらい強引に語っていて正直クソ過ぎた。言うても一応シネコンにかけられる映画なので、観客を楽しませる為に用意した強引な説明展開もしくは原作通りなのかもしれないが、夏生の登場でなんか一気にリズムが崩れた印象。だったら不倫相手の瑠璃子と渉で悩む話に持って行った方が良かったのでは?しかも後半から瑠璃子は退出し、後輩のたまき新キャラとして絡んでくるし謎に登場人物を増やしたがるなと思いながら見ていた。

夏生とラブホのシーンで恭一が「あいつ(渉)を悲しませたくないと思ってて、自分の気持ちが分かんない…」というようなことを言い、その後の夏生の台詞によると恭一は勃起をしなかったわけだが、そもそも不倫するような奴が体ではなく心にそんな正直なものか?夏生に対して勃起しなかったからと言って、渉に想いがあるもしくは迷っているという見せ方はどうも理屈っぽいし説得力が無い。あとゲイバーに行って自分の心を確かめようとするのなら、恭一が離婚した後に不倫相手だった瑠璃子や同級生の夏生とセックスをすることで、自分は渉には惹かれていないと言い聞かせているというような、セックスが自分自身の心を確認する手段としてあれば無駄に生々しいだけの濡れ場にそれなりの意味を持たせられたかもと思ったり。

要するに、渉は恭一と一緒になりたいというよりかは自分に振り向いてくれない・手に届かない存在として一緒にいたい人ということか。大学時代からずっと手に届かなかった相手が自分のものになることに慣れてなくて、拒絶するとも取れる。あくまで恭一の人生の全てではなく、一部として存在していたいように思ったり。とにかく、たまきが可哀想。前の人が戻ってきたからって婚約破棄するってお前に人を愛する権利などねぇよと恭一に言ってやりたいところだが…たまきの方が恭一と渉の関係性より切ない。前の恋人が帰ってくるまで一緒にいちゃ駄目ですか?って台詞だけでどれだけ恭一を愛してるのか想像が付く。ただ、恭一はただのモテ男ではなく、相手に拒絶されることも経験してるからその気持ちを知ってて、相手を拒絶するということはそれなりの覚悟はあるとは見た。ラストは「来るもの拒まず、去る者追わず」だった人が、「来るものを拒み、去る者を追う」人へと成長?した。