TaiRa

フォードvsフェラーリのTaiRaのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
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久しぶりに「アメリカ映画」の新作を観た気がする。IMAX必須。

開始早々、車映画の最高峰はクロード・ルルーシュの『ランデヴー』だ、という前提が車の主観を見せるカメラ位置の低さに出ている。地面すれすれで撮る事はオンボードカメラやレーシングゲームと差別化する意味でも正解。並走車のカメラも地面すれすれで勢いが増す。車を映す、または車から映すカメラ位置のバリエーションは豊富で編集も巧み。実物のレーシングカーを走らせて撮る、という事だけで感動が100倍増。スピード感(速さと遅さ)と重さは正直に映るし、リアルとフェイクではまるで違う。『デス・プルーフ』以来の車映画かと。仕事の話しかしない徹底ぶりと洒脱なダイアローグ。ケン・マイルズの妻モリーのハワード・ホークス的ヒロインな佇まいがまた素晴らしい。彼女が夜の作業場でラジオを通して夫に聴かせる曲が「I Put a Spell on You」のニーナ・シモンver.というのも完璧。レース中に入る音楽のタイミングなども良かった。現場vs経営陣の戦いにおいて、キャロル・シェルビーがヘンリー・フォード2世を説得する場面は2つとも良い。言葉で説得する一回目は台詞も感動的だしコンテも良い。二回目の試走場面は爽快で笑えて泣ける。アクションで語る演出と粋な台詞群とカラッとしたキャラクターたち。この上なくアメリカ映画。ケン・マイルズがイギリス人だからかもしれないが、レースの結末には『長距離ランナーの孤独』に近いものを感じたり。行動はある意味逆だが。エンツォ・フェラーリの脱帽とそれを静かに受け止めるケン・マイルズに泣く。エピローグが長いのは仕方ない部分もあるが、どこかできっぱり切り上げて文字情報に任せるやり方でも良かった。最後に描きたかった息子との会話は『3時10分、決断のとき』で大体やったのだし。
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