水蛇

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいの水蛇のレビュー・感想・評価

3.9
※聴覚過敏は要注意

ドランの「Mommy」には「どれだけ愛する人を泣かせれば気が済むんだ、何ひとつ元には戻らない、そのまま全員撒いてぶっちぎれ」と生命力に泣いてしまったけど、これには戸惑ってるじぶんがいる。わたしが暴力衝動のない発達障害であって被虐待児じゃないからかな。だってもうこんなの最初に言及されてる「トラウマ治療の空きがない」に尽きるんだもん。そこから癒やされてほしいという気持ちしかない。辛すぎる。トラウマ治療は万能じゃないけど、それ以外はほぼ対処療法でしかないよね…もちろんそんなのみんなわかってるし、空きがないからといって無為にすごしたりせずできることを全力でやる彼らの愛情と忍耐と責任の重さには頭が下がるけど、誰も正解は持ってない。ただ目の前にそういう子どもがいる限り、わたし達社会は動かなければならない。でもどこまで?

懸念どおりの事態を招くミヒャとエリ夫婦の善意、どれだけ想ってもベニーの母親を呼び戻して説明させることさえできないバファネの無力感、どんなに良好であってもベニーとお互い唯一の存在にはなれないシルヴィアの博愛精神が突き刺さって抜けない。ベニーの視点で見てるからこそむしろ「誰かをほんとに支える覚悟はあるのか」ということをずっと問われてる気がする。かつて曽野綾子が「人道支援とは自分に唾を吐く人も等しく支えること」という旨のことを書いてたけど、窓口への寄付などではなく個人的に誰かを助けようとする時はいつもそれが頭をよぎる。でもそうするとさいごまで責任とれないなら最初から助けるべきじゃない論になっちゃって地獄が加速するから絶対に立ち止まりたい。相手は人間だからみんなに効く案はないし、そういう意味でもほんとにどれだけ探しても答えはないよ。でも答えがないからって逃げたら社会を放棄することになる。それだけはしないっていう意地でくらいついていく。

これは残酷なのかもしれないけど、ベニーが優しく撫でて慰めたバファネはベニーのためだけに泣いていたということを、いつかベニーに知ってほしい。かえって傷つけてしまうんだろうか。

エンドロールの曲までしっかり聴いたからだいぶ景色は変わった。
水蛇

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