jam

在りし日の歌のjamのネタバレレビュー・内容・結末

在りし日の歌(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

春の陽だまりの下
外は真冬だけど暖かい夕暮れ
真夏の少し湿った空気をかき混ぜるように

嬉しい時も
哀しくてやりきれない時も
リーユンは竈門の前に立ち

ほかほかの湯気たちのぼる真白い饅頭を
二つに割りヤオジュンに手渡す
時にはシンシンも一緒に

言葉はいらない
野菜や肉の炒め物を
饅頭と共に食べる音だけが優しく響く


日に何度かお茶を飲み
食卓を囲む
何年も何年も

一組の夫婦に子どもは一人
けれど産みたかった、
授かった二人目の生命は
計画生育政策のもとで亡き者にされ
そしてリーユンは望んでも子が授からない身体に
  
それ故に尚更大切なシンシンを失ったとき
二人の虚無感は
多くを語らず 
静かに流れる食卓に影を落とし


あなたを失ったら
私は生きていける?

俺とリーユンはお互いの為に生きている
特にリーユンはもう苦しみには耐えられない


家族のように共に過ごしてきた仲間たちから離れて
見知らぬ土地で生きていく


丁寧に
ひとりひとりの心の襞をなぞるように
30年に渡り描かれる家族の物語

こんなにも真摯に
多くを望まず暮らす夫婦にも
時の流れは様々な苦難を浴びせ続ける

いつも穏やかな柔らかい表情のリーユン
少し困り顔のヤオジュン

二人の胸の中には"友情はとこしえに"
と名を変えた"蛍の光"が流れていて


過去と現在を行来しながらも
二人と共に長い歳月を過ごし

かつての友、別れて以来20年、
思わない日はなかったという友との最期の別離

シンシンの死に纏わる
もう一人の"我が子"ハオハオの告白

出奔した養子の"シンシン"の帰還…


3時間越えの長さを感じさせないのは
観ている私も彼らと共に30年を生きてきた
大河の流れに身を任せたからか


湯気立つ饅頭を心待ちに
喜びも哀しみも彼らと分かち合う
jam

jam