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アンダー・ユア・ベッドのmaiのレビュー・感想・評価

アンダー・ユア・ベッド(2019年製作の映画)
3.8
今年見た邦画の中でダントツの傑作に感じました。

陰のような存在で、人から忘れ去られてしまう人間である三井。その三井は、名前を呼んでくれた千尋のことを11年間思い続け、不意に見つけ出せた彼女は主婦としてやつれた姿になっていた…。

ストーリーだけを追っていくと、あまりにも気持ち悪いストーカーの話なのですが、そこに隠れる彼の心情や、彼女の救いを求める姿に少しずつ寄り添っていく自分がいました。

彼女のことは好きだけれど、彼女を独り占めしたいかと言われると分からない。
そんな彼の言葉が表すように、彼のすべての行動は「千尋の幸せ」を軸に動いていきます。自分が無理矢理にでも彼女の人生に食い込みたいなんて思ってもいなくて、彼女が幸せなら自分も幸せだ、くらいの勢いです。
そんな彼女が夫からひどいDVを受けてることを知ったのを契機に、彼の思考はどんどんと加速していき、ついにはベッドの下に潜り込むまでに…。

途中で挿入される彼の過去の追想は事実なのか幻想なのか…定かではなく、その曖昧さが彼の心情の不安定さを物語っています。さらに、ストーカーを気味悪く思う前に「いるなら助けて」と必死に助けを請う千尋の姿と相まって、まるで2人が相思相愛かのように思えてくるから不思議…彼にとって彼女が人生の救世主であったこと同様、彼女にとっての救世主は彼以外にはあり得ない状況だからこそ為せる技かもしれません。

加えて、気味悪いなと思いつつも、三井の暗い気持ちも分かってしまうからこそ、感情移入してこの映画を見てしまうんです。
きっと色んな人の心に届くであろう、「忘れ去られる側はつらい」という気持ち。
それをこれでもか!と表現していて、さらにそこに高良健吾の素晴らしい演技力も加わるので、もう見てるこちら側まで気持ちが引っ掻き回されるようでした。

年齢制限あるくらい、生々しく痛々しい描写が多くて…そのシーンは観るのもしんどいくらいなのですが、ストーリーの秀逸さ(2人の心情を描くのはもちろん、水島という三井の投影のような人物の登場もかなり映画に大きな影響をもたらしていました)や高良健吾・西川可奈子の演技力、音楽や生活音の効果…などなど、非の打ち所がないくらいに映画に没入させてくれます。

暴力シーンもある程度なら大丈夫!という方や、じめっとした映画嫌いじゃないって方は是非。

たった1週間で上映が終了してしまうなんて思ってもみず…急いで公開終了日に駆け込みました。笑
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