MasaichiYaguchi

転がるビー玉のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

転がるビー玉(2019年製作の映画)
3.4
仕事で渋谷に行く度に駅もその周りも変わっていて、今まで通れていた道が工事で通行止めになったり、経路変更になっていたりして慌てることがある。
そしていつの間にか近未来的なビルが完成し、テナントの真新しい店舗が幾つもオープンしていたりして、その華やかさに圧倒されてしまう。
この映画では大規模再開発で変化し続ける渋谷を舞台に、夢や仕事、恋愛を通して何者かになろうと奮闘する3人の女の子の日常をリアルに、繊細に紡いでいく。
3人の女の子を演じるのが吉川愛さん、萩原みのりさん、今泉佑唯さんで、夫々、ファッションモデル、ファッション雑誌の編集者、ミュージシャンを目指す中で“自己確立”しようとする。
しかし事は自分が思い描くようにはいかない。
だから葛藤し苦悩し、自己嫌悪に陥ったりする。
この3人、愛、瑞穂、恵梨香がシェアして住む床が少し傾いた古いマンションは再開発で取り壊し予定で、仮の宿りでしかに過ぎない。
それは恰も彼女らに与えられた“モラトリアム”のように見える。
モラトリアムというと余り良い意味で使われていないように思うが、人生には「一時停止」や「猶予期間」が必要な気がする。
タイトルが表す意味は終盤の方で明らかにされるが、映画に登場する「欠けたビー玉」は宝石のような価値もなく、ましてや欠けていて不完全なものであるが、それが発する光は“道半ば”の者に勇気や元気を与えるものかもしれない。
「転石苔を生ぜず」は悪い意味で使われることもあるが、前を向いて活発な活動を続けていれば何時までも古びない、そんな転石の輝きが3人の女の子の物語から伝わってくる。