モモモ

ブルータル・ジャスティスのモモモのレビュー・感想・評価

ブルータル・ジャスティス(2018年製作の映画)
4.3
映画館で観逃したのが悔しくて自宅での鑑賞を延ばしに延ばしていたのだが…やはり映画館で観たかった…という後悔が深まった傑作。
S・クレイグ・ザラー作品ですからね、その先入観故に片時も気を抜くことが出来ない。
重厚な2時間半、異様に疲れる2時間半。
冒頭の踏み込みシーンから「もしかして、あっさりメル・ギブソンが殺されてしまうんじゃないだろうか」「ヴィンス・ヴォーンが不意打ちで殺されてしまうんじゃないだろうか」と異様に心配してしまうスリラー演出が堪らない。
この緊張感、この不穏さ、紛れも無いザラー作品だ。
終わってみれば、実は存外、物語は簡単な物になっている。それなのに鑑賞中にはまるで先が読めない。
1ショットが、1シークエンスが、とにかく長く、ゆったりと進む。
この冗長さが本作の緊張感と生々しさを形成している。
ある種の重々しさ、鈍臭さが癖になる。
三つ巴ラストバトルがその真骨頂だろう。
車内での発砲、銃の出し入れ、狙撃、不意打ち、その全てが重々しく、鈍臭く、異様な恐怖を纏っている。とんでもない作家映画だ。
ここぞという時に発揮する行き過ぎた人体破壊描写とそれを挟み込み暴力描写省略の美学。
ドアに駆け寄り発狂する様に助けを求める女性、その後ろにチラリと見える倒れた男性と下半身の「赤色」、そして車内で聞く「犠牲者5人重症者2人行方不明者1人」の知らせ。観客に最悪の「想像」を強いる圧倒的な演出力。最高だ。
そんな暴力と冷酷な展開を支える圧倒的な人物描写も眉唾物だ。
全てを確立で見る男と「アンチョビ」と言う不思議な口癖を持つ男の刑事コンビの異常なキャラ立ちだけでも凄いのに、「お前より俺の方が頭が良い」との台詞も、実は恋人に普段から良く言われる反論の過ぎないという更なる人物補完を繰り広げていく隙の無さ。
弟への接し方に、強盗途中の車内で友を気遣い過去を懐かしむその姿に、その男の人となりを見る事が出来る。
元相棒の上司との会話、妻との会話、娘との会話、留守電越しでの返答に、車内での些細な会話、行動に、その人の「今までの人生」を見る事が出来る。
そしてまるでバッグボーンも、人となりも、想像出来ない「獣達」が物語の核となって、日常を破壊していく。
異様な「獣達」を描くその様は紛れもないザラー脚本そのもので、そうした繊細な脚本構成の数々を、贅沢な長さで、確かな役者陣が演じていく。そんな映画が凡作に落ち着く訳がない。
人種差別を扱った作品としても、本作は頭ひとつ抜けている。
「獣達」が襲っていたのは「白人ではない」人々だ。主人公(の1人である)刑事も自覚し得るレイシズムを抱えている。
「ライオンを愛でる刑事」と「ライオンを殺すムショ帰りの男」。
最後に全てを手に入れたのが黒人の彼であったのは、この時点で既に決まっていたのだ。
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