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『Hard Labor（英題）』に投稿された感想・評価

horahukiの感想・評価

2020/06/21 19:05

3.7

白はすぐに黒くなる…

夫がクビになったもんだから、「私が家族を支えたる！」と意気込んで始めたスーパーマーケットの経営。いざやってみると、客には嫌味を言われるわ、店員が商品を勝手に持ち帰るわ、壁にはシミができるわ、くっせー臭いが漂うわで、「こんな頑張ってんのに何でうまくいかないのよ！」と病んでくママさんホラー風味。

昨日に続いて南米産ホラー。今度はブラジル。同じ貧困ホラーでも、アメリカ産とは街に漂う雰囲気が違うだけでなく、間の取り方や描写する優先順位が独特で、それ故に国が違うのに身に迫ってくるような普遍的息苦しさに嫌〜な気分になった。

開店記念に来店客に薔薇を一輪ずつ配ってたら、「値引きじゃなくて薔薇なのね」と嫌味を言うババア客にまずイライラ。いや、わかるけどね！私も値引きのが嬉しいし😂そんで家でもメイドにイライラしてるんだけど、手伝いにやってきたババア（主人公の母親）のメイドに対する態度が、「ここにまだ埃あるわよ」的な古臭い姑→嫁イビリみたいで、やたらとイライラさせられるという…😅

貧困テーマでも、本作は職に就くことの難しさをとことんまでに描いてる。それが制作時のブラジルの現状なのだろうけれど、再就職先をどれだけ探しても見つからず、十分すぎる経験を持っているのに面接中にバカにされてしまう夫、スーパーの面接には長蛇の列、条件がいくら悪くても受け入れざるを得ない状況等々他人事とは言い切れないから辛くなった。主人公一家は元々円満な暮らしをしていたからこその転落の苦しさと再浮上ができないもどかしさと焦りが伝わってくる…😭白は汚れるのは一瞬だけど、汚れを綺麗に拭き取り再び白に戻ることはめちゃくちゃ難しい。

本作が面白いのは、それで単に嘆いたりどこかに怒りをぶつけたりするわけではなく、ママさんが職を作る側＝経営者側に回って物語が進行すること。経営者に切られるという不条理を身を持って味わった一家が、人を切る不条理を実践する側に回るという皮肉。隣の芝は青いではないけれど、双方の立場で社会に対する違和感を浮き彫りにするのは、同監督コンビの『狼チャイルド』と同様。

あちらも貧困層と富裕層の両視点を併せ持った物語で、なおかつ親子の物語でもあったことを考えると、一貫した事柄を描き続けていることがわかる。しかも両方とも面白かったので、このコンビで新作を撮って欲しいなって思った。

そして本作では、ママさん含めた主人公一家に忍び寄る崩壊という「負」の気配は、家ではなくスーパーマーケットという「職」の象徴の場における異変によって語られる。壁に浮かび上がる黒いシミと、見て見ぬ振りをするかのように覆い隠す行為、床から溢れ出す黒い粘液とくっさい臭い。職業版『反撥』と言っても良いようなシュールレアリスム的なやり口。棚に空間を区切らせ、光→闇へと境界を跨ぐ行為を自身の内面へと至る行為にダブらせ、ハッピーの象徴を不快なものへと変貌させる心的表現の素晴らしさ。

ハンマーを手にしたジャケから予想されるようなわかりやすい大暴れスプラッターなんてものは一切ないから日本に入って来てないというのもわかるけど、DVDスルーで良いから日本にも入れて欲しいなって思った。そして、フィルマさん画像追加ありがとうございます！😊

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