故ラチェットスタンク

ラストナイト・イン・ソーホーの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

3.8
エドガー・ライト映画、劇場初体験

エドガー・ライト監督は全て大好きだが、「ベイビー・ドライバー」同様、他の作品ほど気に入りはしなかった。

「ベイビー…」でもそう感じたのだが、近年の彼の作品はキャラのデッサンが平均的な形に安定していくばかりで、尖ったデフォルメがどんどん少なくなってしまっている気がする。

「スリー・フレーバー」期の、「内面に深く触れないキャラは天丼ギャグでデフォルメして造形を立てていく」、という描き方が好きだったので、今作はその要素が希薄であまり乗れなかった。

それによって(主人公以外の)人物が描き割的になっていたのも面白く感じられなかった大きなポイント

女性問題をあのエドガー・ライトが描いたという成長を感じさせられる一方で、その問題の細かいところまで手が届いているかと言われるとそうは思わなかったな。
社会批評映画としてではなく、あくまでエンタメという枠に収まった印象

どちらかと言うと監督が自分の映画作りと向き合っている側面が強いなって思った。

これからの作品作りにおいて、自分がどのようにして先人たちのオマージュを取り入れ、変えられない過去をどのように背負って前に進むのか。

ラスト、エリーの作る服がサンディの服そのままでないのが象徴的

「過去を取り入れながら、自己を確立して前に進む」という監督が自己の作家性を再認識する作品としては納得の出来。

個人的な激推し俳優の主演2人の演技は文句なしに素晴らしかったし、俳優の特長の理解とそれを余すことなく使い切るエド監督の演出はやはり素晴らしかった。

アニャ嬢は現代俳優の中で最も時代劇の似合う方(「クイーンズ・ギャンビット」「サラブレッド」「ウィッチ」などなど)なのでこれからに期待大
姉御属性は最強。

ホラーとして絵面的な新しさが無く、女性の抱える男性への恐怖の深い部分に映像として切り込めていないのは非常に物足りない部分

肝心な怖がらせ方も緊張感は作らず、ジャンプスケア頼りで少し残念だった。

しかし、映像表現と編集はやはりお見事。というか作品を出す度に絵的なベストワークは毎回更新されてる。
各場面レトロとモダン、アナログとデジタルが美しく緻密に繋がる。
多く人が言っているけど初めてタイムスリップした時のダンスシーンがやはり白眉

60年代の映画、音楽のリズムに合わせて語り口をスローテンポに落としているのも親切かつ正しい選択
音楽の使い方はたまに雑に感じるけど、効果的な場面ではとても効果的

終盤でのツイストは「ホットファズ」、人の力へのドライな視点は「ショーン・オブ・ザ・デッド」だったね。

技術面は完璧!
ビジュアルは平凡
脚本には少々問題あり
という印象。

また「ホットファズ」のようなしょうもない映画も作ってほしいなと思いつつ、きっとこれから彼はどんどん成長と脱皮を続けて大人になってしまうんだなと何となく察した。

そういう意味ではちょっと寂しい。

改善点もありつつ全体的には満足