ひぐまさん

主戦場のひぐまさんのレビュー・感想・評価

主戦場(2018年製作の映画)
3.8
日本がジョージ・オーウェル並みのディストピアになってるってみんな気づいてました?

映像としてみると、とにかくテンポがよくて、笑いと恐ろしさが上手くミックスされていた。ただ固有名詞がたくさん出てくる話を、かなり早口で読み上げるので、前提知識がないと「え?え?」となるかも。

全編を通して修正主義者や否定主義者の主張がいかにガバガバなのかを強調しているため、語り手がそれを自信満々に語る姿がとにかくウケる。が、そういう人たちが金や権力を持って我々の生活を操作する側にいると思うと全く笑えない。

下馬評からして修正主義者や否定主義者をワンサイドで殴る話なのかと思ったが、そうでもないところがあった。例えば慰安婦を支援する側の人間が「20万」という根拠のない数字を出すことに否定的だったし、慰安婦支援をする人が避けがちな慰安婦制度が韓国社会の家父長制を前提していたこともしっかり紹介されていた。また映画の最初と最後には元慰安婦の人たちの悲痛な声が響く。この問題を「日本と朝鮮の外交上の対立」や、「歴史(学)的事実とは何か」という問題に還元せずに、慰安婦となった女性たちの受けた苦痛を何よりもまず直視しなければならないという、監督の強い問題意識が読み取れた。

ただ、修正主義者や否定主義者の立てるロジックの俎上にのってそれをタコ殴りするという構成をとってるせいで、慰安婦の人々の生活世界はどんどん遠のいていく印象は拭えなかった。全編を通して、彼女らの苦痛が、歴史学的事実の正否や、政治的態度の表明や、愚にもつかない排外意識によって横ズレしていく感覚を味わった。だがこれが慰安婦問題をめぐる議論の現状といえばそうかもしれない。だがその議論の応酬こそが「主戦場」だとは思いたくない。

この映画は、この問題に目を瞑ってノンポリを気取っている人が見るべきだと思う。政治的な話題を道端に落ちた犬のウンコと思ってるような人も、「何も言わない」ということが持つ政治性を、たまには意識してみるべきだろう。