真一

ミッドサマーの真一のレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.4
チョコとワサビを混ぜたような
「食い合わせの悪い味」が
脳味噌を直撃してくる怪映画!

美と醜。
生と死。
愛と憎。
花と腸。
聖と性。

これは、混ぜたら絶対にいかん
具材をぶちこんだ闇鍋だ。
気分はゲロゲロ🤮。
でも、なぜか心地いい!
妙な感性が目覚めてしまった😄


それはさておき、この映画は
観る人に対し、こう問いかける。

「共感の輪を広げることは、
幸せですか」

グロ満載の本作品を観た後に、
「私もダニーのように、ホルガ村の
人々と共感したい」と思った人は、
恐らく少数だろう。

だが、考えてみれば、ダニーは
愛する両親と妹を一気に失った
ばかりで、精神は崩壊状態。
しかも、この惨事は妹の無理心中
によって引き起こされていた。
悲しみのあまり後追いしかねない
ほど憔悴しきっていたダニーと
同じ心理状態に置かれても、
「あんな村に取り込まれる
はずはない」と言えるだろうか。
私は、言えないと思う。

しかも、共感を求めていた
という意味では彼氏の
クリスチャンや、悪友のマーク、
ゼミ仲間のジョシュも同じだった。
彼らは、いつもつるんで
「セックスしたいよな」
「遊びに行きたいよな」
と合言葉のように言い合い、
「俺たち同じだね」
「これが仲間だよね」
という思いを
確認しあっていたからだ。

ただ、その共感レベルがホルガ村
より弱く、カルト臭がしない
というだけの話で、
根っこは同じだと思う。

圧倒的なホルガ村ファミリーの
共感パワーの前に、
クリスチャン一行の結束は
あっという間にほころび、
クリスチャンとダニーの恋人関係も
無惨に崩れ去る。

この映画によると、
共感パワーが強い集団に、
私たちは引き寄せられる
ということらしい。

確かに私たちは、
SNS上でどこかの「界隈」に属し、
相互フォローの輪を広げようと
躍起になっている。
そして「いいね」が増えると、
なんとも言えず嬉しくなる。
これって「界隈」が発する
共感の磁場に引き寄せられ、
それを「感じ」ているからだと思う。

そして、今属している界隈より
もっと共感パワーが強い新たな界隈
に出会うと、私たちは自然と
そちらに吸い寄せられていくのだ。

だって四方八方から「いいね」が
飛んできて、あらゆる人がフォロー
してくれるんだもん。

そう考えると、村人全員が
フォロワーになってくれるホルガ村は、とりわけ孤独で、心が弱った人には
楽園のようなところかもしれない。

なにしろ
ダンスしても「いいね」
泣き叫んでも「いいね」
エッチしても「いいね」
焼け死んでも「いいね」
してくれるんだからf(^_^;

だが、ここで話は終わらない。

一度共感の輪に飲み込まれ、多幸感に
包まれると、集団が何をしようと
受け入れてしまうという人の性を、
アリ・アスター監督は巧みに描いた。
みどころは、踊りを通じて
村に溶け込んだダニーの心理変化だ。

ダニーは、恋人のクリスチャンを
人身御供にする決断を自ら下し、
最後の場面でニッコリ笑う。
両親と妹を失い、半狂乱に陥った
ダニーの泣き顔は、そこになかった。
ダニーは、幸せを取り戻したのだ。

これで良かったのか?
それとも、こんなことは
あってはならないのか?

ここが、考えどころだろう。

私は、あってならないことだと
受け止めた。
こうして人の心の弱みに
つけこみ、集団化を図るのが、
カルト教団であり、全体主義国家
だからだ。

いずれにせよ、見所たっぷりで、
良い感じでトラウマ的残像を
脳裏に刻み付けてくれる
なかなかの傑作でした!
真一

真一