SANKOU

ミッドサマーのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

国によって、民族によって、宗教によって、信仰されているものは全く違う。
だから自分にとっては取るに足らないものでも、ある種の人々にとってはそれがとても神聖で汚すことの出来ないものかもしれない。
例え自分とは価値観が異なっても、文化の違いは尊重すべきものである。
が、どうしても受け入れられないものもある。
それは信仰のために人の命が捧げられることだ。
この映画に描かれている儀式は現代に生きる人間のほとんどが理解できないものだと思う。
しかしとても原始的なものであるとも思った。
この儀式を理解できない、受け入れられないという者は、神を忘れた傲慢な存在なのかもしれない。
だからこそとても恐ろしい作品だと思った。
精神を患っていたダニーの妹は、両親を道連れにして死を選んでしまった。そしてダニー自身も精神を病んでいた。
彼女の恋人であるクリスチャンは真に彼女の心には寄り添ってくれない。
そんなダニーはスウェーデンからの留学生ペレの誘いによってクリスチャン、マーク、ジョシュと共に、彼の故郷で夏至に行われる祝祭に参加することになる。
夜になっても太陽が沈まない白夜の地。
美しい自然と調和した穏やかな人々に歓迎され、ダニーたちはホルガ村での祝祭の宴を楽しむことになるのだが。
序盤からずっと得体の知れない気味悪さを感じる作品だった。
その正体が何なのか分からなかったが、儀式が始まり、二人の老いた男女が崖から飛び降り、神に身を捧げるシーンから一気にこの映画の怖さを思い知ることになった。
当然ダニーたちはその光景を受け入れることが出来ない。
これだけ閉鎖的で、おそらく外の人間には絶対受け入れられないような儀式に仲間を招待するペレ、そして彼らを受け入れる村人たち。
これはどう考えても何か企みがあると思った。
ショックな現実を目の当たりにしながら、村に留まることを決意したクリスチャンたちの心情は理解出来なかったが、その決断のせいで彼らは更なる狂気へと呑み込まれていく。
物語が進むにつれて、何故彼らが招待されたのか、その理由は想像がついた。
正直最初はアーティスティックだが、万人への理解を拒否するような独りよがりの作品だと思った。
しかし恐ろしくも美しいこの作品の世界観にどんどん引き込まれていった。
もちろん神のために人の命を捧げる村人たちの行為も恐ろしいが、個人的にこの映画に感じる薄気味の悪さは、見えない力によって意志や感情を統一された人々の姿にあると思った。
未知のものは誰だって恐ろしいが、個人が幸せを追求して生きることが当たり前になった現代社会からすると、個よりも集団としての意志を尊重し、あくまでも人は神の僕であるとする社会は前時代的でありとても恐ろしく感じる。
同時にこの映画に言い様のない美しさを感じるのも、人間の原始的な愛の姿を描いているからだろう。
外の血筋を村に引き入れるために、クリスチャンは村の娘と強制的にセックスをさせられる。
その様子を裸になった女性たちが見守るが、彼女らもセックスをする二人と同じように声を上げながら身悶える。
その様子を女王に選ばれたダニーは目撃してしまうが、ダニーがショックのあまり叫び声を上げると、村の若い娘たちもダニーに呼応して叫び声を上げる。
ダニーが最終的にクリスチャンを生け贄に捧げることを決めてしまったのは、トラウマのせいもあるのだろう。
観ているこちら側もトラウマになってしまうような衝撃的な内容だったが、生け贄にされた人たちの死体がどこか物っぽいのも意図してのことなのだろう。
もはや色々と振り切ってブラックコメディのような作品であるとも思った。
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