野中知樹

ミッドサマーの野中知樹のレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.0
映画が終わった瞬間、
劇場中が一体感に包まれた話。

別れかけのカップルが人類学科の研究を兼ねて訪れたスウェーデンの田舎町で、90年に一度の奇祭にトリップする物語。
『グリーンインフェルノ』を彷彿とさせるプロットラインだが、パニックものというにはあまりに静かな舞台で進行していくアンバランスさに当てられる。

美しく華やかな風景と牧歌的な北欧民謡とは対称的に、マリファナのトリップによるダリの絵画のようにとろける物体、天地がひっくり返る不安定なカメラワーク、そして淡々と繰り広げられるプリミティブでグロテスクでも洗練された儀式。

観客は主人公たちと同じ情報量と立場のため、冒頭はそのミスマッチ感に悪夢的なざわつきを覚えるが、白夜で朝と夜の境目が掴めなくなるように、日常と非日常の境界が薄れていき、まさに「呼吸」を同期させていくように、その狂気とも思える祝祭に飲み込まれていく。

考えるより先に感情を振り回されるような感覚。
エンドロールが終わり劇場が明るくなった瞬間。一拍おき、安堵感と呆気にとられたような笑い声が劇場を満たした。私は狂気の余熱で頬を紅潮させながら、2時間半のトランス体験に喪失感さえ覚えた。
野中知樹

野中知樹