圧巻。ただただ圧巻。
芝居、音響、演出。三拍子にぐうの音が出ないほど圧倒される4時間。
2008年に劇的な倒産を迎えたリーマンブラザーズ社の、19世紀から21世紀の100年以上の歴史を舞台化したナショナルシアターの映画版。
オフィスを舞台にしたキューブのなかで3人の俳優たちがシームレスに様々な役を演じ、リーマンブラザーズの激動の歴史を描く。彼らの身体的にもテクニカルで繊細、かつ圧倒的な熱量の芝居には、思わず笑みがこぼれてしまうほど惚れ惚れとする。
またト書きが8割くらいなセリフは、ポエティックでリズミカル。その語呂の良さは聴き心地の良さに酔いしれるとともに、ピアノの独奏と合わせてまるでラップのライムのようでさえある。そんな「モノを語る」4人(ピアノの芝居を含め)が描くまさに物語は、映像的なイメージには生み出せない聴き手の果てしないイマジネーションを引き出す。舞台上には物理的に存在しないシーンがいまこの瞬間にもふと蘇るのである。舞台演劇ならではの至高な巧みさである。
また映像的な演出を駆使した構図もたまらない。劇中の言葉を使うなら「nothing more nothing less」な絶妙な加減。モノクロのニューヨーク、燃え盛る綿花、地平に渡る一本の綱。。。溜息でしかない。
単純にリーマンブラザーズのビジネス論としても含蓄に溢れた内容だから、舞台に興味がない人でも、ビジネスに興味があれば見に行って損がないと保証できる。そこで演劇の面白さに触れればこれほど一石二鳥なことはない。
あぁ、堪らない、堪らない。
どれだけこの満足感を分かち合いたいか。
人生に数回訪れる演劇体験の一回であることは紛れもない。
おこがましくも自分こんな表現をしてみたいと心の底から渇望して、喉が渇き切った。