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幸福路のチーのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

幸福路のチー(2017年製作の映画)
3.8
 チーという名の元気な少女が10代、20代と自分の生き方に迷いながら悩みながら成長していく多分に自伝的な台湾発のアニメ。蒋介石が死去した年に生まれたチー。中学入学時に戒厳令解除、大学時代には初の国民直接総統選挙、とさりげなく挿入されている歴史的な出来事を背景に、29歳で渡米し、かの地で結婚したチーが祖母の死で故郷に戻ってきたところから物語は始まる。少数民族アミ族の祖母はシャーマンのように不思議な力を持っていて、離婚を考えているチーの前に度々出現し、逞しいシングル・マザーになっていた幼なじみが実は妊娠しているチーを勇気づけてくれるのだが・・・・・・。

 試写の際には何故か監督は男性だと思い込んでいて(日本のアニメの印象から持っていた偏見でした!)、いや、こんなに細やかに女性の心理が描けるなんて−−−−と思ったら、やはり女性監督(1974年生)。アメリカで映画学校で学んでいるときにイラン出身のマルジャン・サトラピが自作の自伝的漫画をアニメ化した『ペルセポリス』(2007)が話題になり、「そういう話なら私にもある」と思ったそう。

 2000年に台湾に帰国したときは実写映画で撮ろうと思っていたが、アニメで、と思いつき、まず短編を撮り、それからアニメーションスタジオを立ち上げ、若い人を集めて根気よく指示して描いて貰い、完成まで4年を費やした。

 チーはことさら非凡な才能や野心があったわけではないし、台湾の政治情勢に大きくは翻弄されたわけでもない。ちょっとだらしない父親と働き者の母親のひとり娘への期待にそれなりに応えようともしたし、それを脇に置くように自分なりの道を選びもした。そうした揺れ動きが丁寧に描かれているからこそ、共感を呼ぶ大人向きのアニメになっている。
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