カポERROR

淪落の人/みじめな人のカポERRORのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
4.4
【EMERGENCY CODE ”59”】

59!ゴーキュー!号泣!(;´༎ຶ۝༎ຶ`)
こんなん、オッサン全員泣くに決まっとろうが!
ラスト30分なんか、完全にティッシュ・タイムだ!
エンドロールの頃には脱水症状!
俺、渇水!
水不足!
訴えてやるっ!!!

以上は全て本作を讃える褒め言葉である。
私は、本作と設定が近しいとよく引き合いに出される『最強のふたり』も『THE UPSIDE/最強のふたり』もま〜ったく刺さらなかった稀代のひねくれ者だが、本作はグッサグッサと急所にぶっ刺さった。
(※本作は最強のふたりのリメイクではありません。)
私に言わせれば、本作のチョンウィンとエヴリンこそが正真正銘の”最強のふたり”だ。
その”最強”の差をドラゴンボールで例えるならば、ハリウッド版『THE UPSIDE/最強のふたり』=戦闘力139の亀仙人、本作『淪落の人』=戦闘力8,000,000,000の孫悟空…そんな感じである。(いずれも天下一武道会優勝者…最強とはなかなかに奥深い。)
偉大なる鳥山明先生に合掌。

「淪落の人」とは「落ちぶれた人」の意味。
言葉の通り、本作は失意の底にいる落ちぶれた人々の再生の物語である。
突然の事故で半身不随となり、車椅子生活を余儀なくされている主人公 チョンウィン(アンソニー・ウォン)。
彼は妻と離婚しており、大学生の息子もその妻のもと海外で暮らしている。
そのため、息子との語らいはPC上のリモート通話のみ。
息子と対面で再会することと、親子で一緒に卒業旅行をすることがチョンウィンの夢だったのだが、半身不随の身体では遠出など出来るはずもない。
近隣に住む実の妹(セシリア・イップ)との関係もうまくいっていない彼にとって、唯一の楽しみは元同僚のファイ(サム・リー)との談笑だけだった。
そんな孤独な彼のもとに、ある日、フィリピン人のエヴリン(クリセル・コンサンジ)が住み込み家政婦兼介護人として送り込まれてくる。
広東語が全く話せないエヴリンに最初はイライラしながらも、毎日片言の会話を交わすうちに次第に心を通わせるようになるチョンウィン。
そして彼は、エヴリンが貧しい生活のために泣く泣く自身の夢をあきらめていることを知る。
そんなエヴリンの夢を叶えるために、チョンウィンはある決意をするのだが…。
失意の底にいる二人が日々の触れ合いを通じて、徐々にお互いを尊重し合うようになり、やがてお互いの夢を叶えたいと願うほどの絆を産む。
果たして二人の夢の行く末や如何に。

本作は2017年の第三回“劇映画初作品プロジェクト”の入選作品で、新人のオリヴァー・チャンが脚本・監督を務めた彼女の長編デビュー作だと言うから驚きだ。
そして、主演のアンソニー・ウォン。
香港を代表する俳優でありながら、その発言から中国当局に目をつけられ、華やかな銀幕の舞台から遠ざかっていた彼が、本作の脚本に惚れ込み、ノーギャラで主演のオファーを受けたのだという。
香港では公開後、大きな反響を呼び、第38回香港電影金像奨で最優秀主演男優賞(アンソニー・ウォン)、最優秀新人監督賞、最優秀新人賞(クリセル・コンサンジ)を受賞。
他にも第14回大阪アジアン映画祭で観客賞を、第21回ウディネ・ファーイースト映画祭ではゴールデン・マルベリー賞とブラック・ドラゴン賞も受賞している。

各方面から高い評価を受けた本作。
正直、”入学申請に必要なトランスクリプトどうなった?”などツッコミどころも散見されるのだが…そんなもん感動メガ盛りの前ではハナクソ同然である。
(オールタイム マイベスト『BLUE GIANT』の3D CGのようなもんだ。)
荒削りだろうが稚拙だろうが、作り手の情熱が私の心を揺さぶったのは紛うことなき事実に他ならない。
何より、オリヴァー・チャン監督の伸び代にワクワクが止まらないではないか。
そんな作品に出会えたことは、何よりも幸せである。
作り手の方々に心から御礼を申し上げたい。
そして、オリヴァー・チャン監督の今後の活躍を心から祈念している。

曇り空の隙間から覗く眩しい晴れ間のように、心に温もりと希望を与えてくれる本作『淪落の人』。
未見の方は是非御鑑賞頂きたい。
現在、U-NEXTにて見放題配信中。
TSUTAYA及びTSUTAYAオンデマンドではレンタル中。
カポERROR

カポERROR