さく

フェアウェルのさくのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
3.9
オークワフィナのちょっと下手な中国語が、役のもつアイデンティティのゆらぎ、所在なさと結びついていてよかった。ビリーは劇中、本当の気持ちを英語でしか吐露できていない。流暢に話せない中国語では、精一杯取り繕うことしかできない。「伝える」あるいは「秘める」セリフ回しに、東と西、それぞれの価値観がそのまま現れている。

お嫁さんのアイコさんと李おじいさんの存在感が異質。ふたりとも(形だけの)結婚によってひとつの家族の中に組み込まれたのに、けっきょく、「家族の一員」とはみなしてもらえない。立ち位置の曖昧な人は振る舞いまで曖昧になっていく。李おじいさんは呼びかけに答えないし、アイコさんはずっとキョトンとしたりペコペコしたりしている。

あと二度(三度だっけ??)、ビリーの部屋に入ってきた鳥はなんだったんだろう?

映画はビリーの心情や成長に焦点を当てているけれど、ビリーのお母さんやお父さんにも、いとこにも、おばあちゃんの妹にも、息子をアメリカの大学にやるおばさんにも、各々が秘めている物語、痛みがあるのを感じた。生まれた土地や、育った土地から解放されない人間の系譜。ビリーのママが、苦々しく思っていた義母との別れを悟って泣いてしまうシーン、かなりぐっときた。

最後の映像も一見肩透かしっぽいけど、人間ってそういうとこあるよね、みたいな納得とおかしみがあり、わたしは嫌いではなかった。"based on an actual lie"という最初の但し書きが生々しく立ち上がるうえ、キャラクターに妙な迫力が生まれる感じもあってよいと思う。
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