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TENET テネットのgladdesignのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.2
時間の流れが前へ進む世界に生きている人間にとっては、時間の流れが後に進む世界の事は容易には理解しがたい。
ただこの映画を見ている我々の世界では、時間が前に進み、映画の時間は始まりから2時間30分で終わる。その時間が前へ進む世界の映画の中で時間が後へ進んでいくので、余計に訳がわからない。
この映画を1回見ただけで、きちんと理解できる観客はほぼいないと思うが、この映画を作っている人たちはどこまで理解できていたのだろうか?
監督や脚本家は理解できていたのかもしれないが、演じている役者や演出家やその他のスタッフは理解した上で仕事をしていたのだろうか。甚だ疑問である。

キャラクターの造形や個性や役割などはかなりはっきりしているし、むしろわかりやすい位にシンプルに演出されていたと思う。
だが、ストーリーを追う中で、なぜこの人がこういう動きをしているのか、なぜこの人はここへ行っているのか、この人は何についてしゃべっているのかなどなど、細かく理解しようとすると、何と何がつながっているのか、非常に複雑で難解である。

映画の時間軸上で進めば進むほど、あの時のあのアクションは、こうだったのか、といった伏線が回収されたかのように見える部分が次々と明らかになっていく。
そうなる必然性はひとまず理解できるのだが、それぞれのキャラクターが瞬時にそれを理解して行動していることに観ているこちら側の理解が追いつかず、映像の逆再生によって、伏線が回収されたことが明らかになって初めて、あぁそういうことだったのかとわかるのである。
こうして、後から次々と理解できた気にさせられているが、映画を見終わった後、結局これって何の話なんだっけと、全体を思い返してみると、訳がわからなくなっていたことに気づくのである。

さらに言うと、時間が前に進んでいる世界(=順行)と時間が後に進んでいる世界(=逆行)とが、同じ空間に存在していて、それぞれが影響を与え合っている、という様を映像として表現しているところが非常に新鮮である。これまで誰も見たことがない世界観だ。

これらがこの映画が面白いけれど訳がわからない、逆に難解だけれども面白かった、という映画評につながっているのではないだろうか。

これは間違いなく2度目が面白いはずだ。
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