このレビューはネタバレを含みます
「イージス」とは「盾」を意味する。
ギリシア神話の女神アテナが使う防具の総称でもある。
国防をテーマとした作品で原作は1999年刊行、映画は2005年公開、2000年に日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞したというすごい作品である。
当時の時代背景が現在とは変わっているが、それでも深い根っこの部分では普遍的なテーマが通底している。
「国」とは何か、日本とは何か、人の命と国防はどちらが大切なのか、日本人としての誇りは、恥の概念は、もう無くしてしまったのかと、自浄作用のない日本は、現代もそう変わってはいない。
日本国内から英雄的なヒーローが登場したわけではない。
「ホ・ヨンファ」と名乗る(おそらく)韓国籍の男によって、海上自衛隊の護衛艦「いそかぜ」がコントロールされてしまう展開は、外圧によってしか内政を帰ることができない日本の政治機能不全をくっきりと浮かび上がらせている。
「自ら平和を勝ち取ったことがない日本に何がわかるのか」と論破されてしまうのだ。
主人公・仙石先任伍長は、良くも悪くも「サムライ的な日本人」として描かれる。
護衛艦は家、船員は家族、として付き合い、苦楽を共にする。
考え方が違っても、怪我をすれば手当てをする。
そうした「隣人を大切にする」「受け入れる」気概を持った人物だ。
もちろん悪い面でも日本人的であり、年上なんだから敬語を使えなどと昭和的発想も残っている。
「いそかぜ」が事実上乗っ取られてしまった時の日本政府の、特に首相の反応は、第一声が「ワシントンはなんと言っているのか」だった。
どこまでもアメリカの顔色を窺う体質が根深く息づいている証左である。
とはいえ、実際の政治家がここまで腐っているとも考えにくく、エンタメ的な演出がやや過剰な感じもした。
架空の生物化学兵器「GUSOH(グソー)」を巡っての攻防戦、肉弾アクションもあったが、ややアニメ的設定すぎる気がした。物語の重厚感からするとやや軽い扱いでもあった。
むしろ「GUSOH」がなかったとしても成立できたのではないだろうか。
ただ原作(未読だが)とは若干違う展開になっていたようだ。
全編にわたってCGがふんだんに使われていたが全く気にならなかった。
『沈黙の艦隊』の前に観ておくとよいだろう。