モモモ

TENET テネットのモモモのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.3
唯一無二で、超大作で、それなのに奇妙な映像表現と物語構成を内包した作家映画の新たな傑作。
僕はノーラン大好き人間なので「どんな物が来ても大丈夫だぞ!」と身構えて鑑賞したんですが、それでも「なんだこれは」「思っていた映画と違う」が持続する映画体験でおかしくなってしまうかと思いましたね。
「インセプション」の様に世界観説明を序盤で展開するかのと思えば今作はそれをしない。
事前予想通りの複雑な物語設定と作品を支える大きな軸である「逆行」の説明を要所要所「映像表現」で説明していく。
主人公が「逆行」していると世界は「起きた地点からスタート」しているので「逆再生」に見えるがそこで「逆行していない存在」とぶつかった時(主にアクションシーン)になると「片方だけ逆再生」に見えたり「両方とも逆再生」に見えたり、これが映画に複雑さと奇妙さを生んでいる。合成なのか、単純に逆再生させただけなのか、シーンによって違うのでこれを確かめるだけでも複数回観たくなる中毒性が本作にはある。
そしてそんな「逆行」表現を成立させる為に技術的側面(口元だけは逆再生だと違和感が大きすぎる?)を補い物語上の必要要素となる「マスク」の使い方が見事だ。流石、描きたい物の為に理詰めして「それらしいルール」を設ける天才ノーラン。
映画が「進んで」行けば時間の「逆光」は理解していける。主人公とシンクロする様に「現状」を「逆行」を理解していく。主人公に寄り添い、共に苦難に立ち向かう。これこそ映画だ。
「タイムスリップ」でも「タイムループ」でも無い。「時間を逆光する」とは何なのか。理解したつもりではあるが絶対的な自信はない。もう1度、いや何度も観直して早く自分の解釈の整合性確認したい。
今までは何だか野暮ったいアクションシーンを撮る男だったが今作はアクション監督を入れたのか、「大好きなスパイ物だ!!」とノーランの力量が上がったのか、役者が持っているスキルなのか、アクションがキレッキレでビックリしてしまった。特にキッチンでの近接格闘の鋭さは最高だった。
「ハンス・ジマーでは無いノーラン作品」という物に今更我々は順応出来るのだろうか?と心配ではあったが、そんな物は無用であった。
劇場の大スクリーンで、大音響で、身体が揺れる程の劇伴の、銃撃戦の、爆発の低音を浴びて欲しい。
「世界を救う」壮大なスパイ物語の組織図やバックグラウンドがまるで見えてこない曖昧さ、そして壮大な物語を「親子」の2ショットで帰結するミニマムな着地点、ノーラン好きを決して裏切らない最高の脚本だ。
「映画館で観なければいけない」「映画館でなければ真髄を楽しめない」そんな作品には違いない。やはり映画は、映画館は、最高だ!!
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