ヤマダタケシ

TENET テネットのヤマダタケシのネタバレレビュー・内容・結末

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2020年9月27日 グランドシネマサンシャイン(IMAX)

【引かれる人々とそれを引き離す世界の流れ】
 『TENET』はまぁ分かりづらい話だと思う。それは時間を逆行させる力を持った者同士の戦いというのが前提にあって、そのルールの中でいかに相手の裏をかくかが、
・説明の言葉は少なく
・その割に登場人物、固有名詞が多く
・アクション中心に描かれるから
 この作品世界の中のルールや登場人物の関係性をきちんと理解できれば今作はキレイに終わっている作品なのだと思う。
 ただ個人的にノーランは言葉で理解する監督というよりは、映像で体験する監督だと思っている。
 もちろん物語を理解しようとしながら観る必要はあるが、それ以上に今作で観るべきなのはとにかく逆行する時間の中で行われる身体アクションやカーアクションだと思う。だから、回転扉を渡って逆行する世界に行く=ここから先は異常なアクションが繰り広げられますよってところに入ってからが見どころだと思う。
 今作はその意味で、ここからドライブかかりますよってポイントがハッキリ示されるので、その意味では分かりやすかった。
 ノーラン作品の多くはまずめちゃくちゃ作り込んだその作品世界のルールを提示する事からはじまる気がする。『インセプション』にしても『インターステラー』にしても、まず複雑に入り組んだように見えるその仕組み自体を提示する。
 もちろんその仕組みを読み解いていく、理解していくことにある面白さはあると思うが、個人的にノーラン作品はある程度のところでその理解しようとする努力、言葉で理解しようとする努力を放棄していいと思っている。
 むしろノーラン作品が面白くなっていくのは、長い時間をかけて説明された作品世界のルールがビジュアル化された時に、それを考えるのではなく感じるという部分にあると思っている。
 そして、その上でノーラン作品で描かれるのはビックリするくらい純粋な人間ドラマ、というかフィクションの中でしか通用しえない強い人間同士の結びつき、というか運命の話にあると思う。
 基本的にノーラン作品の後半で明らかになっていくのは、世界の仕組みと人間同士の結びつきである。惹かれあう二人の関係を世界のルールが引き裂く。ふたりは世界によって離されれば離されるほど強く結びつき、結果として世界によって引き離されることが世界によって運命づけられた強い絆を生み出すというようなそういう部分があると思う。
 だから後半、世界の仕組みがビジュアル化されていく中では仕組みのビジュアル化と同時に繋がりのビジュアル化がなされていると思う。
 その意味でノーラン作品は散々理屈をこねくり回した末に「これは運命だよ」みたいな馬鹿らしい、けど力強いハチャメチャさがあると思う。
 今作も最後まで観て行くと、まぁいくつかの人々の繋がりはあるわけだけど、特に印象的なものとして主人公とニールの、お互いに出会う前からお互いを知っているような、そういう運命の話になっていて、それと同時にその運命ゆえに世界から引き離される話になっていく。そうなると作中で示された世界の終わりの危機みたいなもんはかなりどうでも良くなってしまう。
 また、主人公とヒロイン・キャサリンの間にもその結びつきはあり、ふたりは恋仲のような雰囲気でもあるが、彼女が自らを縛り付けていた夫を殺害し、それを殺す自分を過去の視点から見ているシーンによって、むしろ彼女の運命は夫の自由から解き放たれ自分として生きることにあったんじゃないかなぁとか思った。
 なので、どちらかというと今作の運命は主人公とニールの間にあるものこそが強いのじゃないか思った。そして出会う前から出会うことが決まっているふたりの運命を証明するために世界が存在するというあり方は、かなり新海誠っぽいなぁとも思った。
 ただ、ノーランの過去作と比べた時、引かれるふたりとそれを引き離す世界のルールっていう点からすると、今作はそこでのドライブが比較的薄いように感じた。
 それはやはりニールとの絆とキャサリンとの絆のふたつを描いてしまったからな気がしていて、例えば『インターステラー』だと父と娘の関係にそれを縛って行ったからこそ、後半のめちゃくちゃな世界の流れの中で引かれあうふたりの結ぶ一直線がキレイであり、そこにドライブが発生していたのに対し、今作は後半のアクションとそこで引かれあう人物の感情が同じ戦場にいるニールと船にいるキャサリンの二点に分散してしまいドライブしづらかったように感じた。『インターステラー』が良かったのは、全く違う地点にいるふたりがお互いの方向を向いているからこそ生じるロマンチックだったのに。
・敵役にあたるセイターは、ある意味この世の中全体に対する絶望から生まれたようなキ
ャラクターであり、その点において若干アベンジャーズシリーズにおけるサノスに近い。
⇒セイターは世界に対する絶望から未来を望まない存在であり、主人公は逆に時間を未来へ進めて行く人物である。さらに言うと運命的に未来に結び付けられている人物でもある。
⇒過去に留まるセイターにとっての唯一の希望が恐らくキャサリンであるのだが、そのキャサリンが主人公に惹かれていく(というか主人公が象徴する未来に惹かれていく)。キャサリンのドラマとしてセイターは過去に置いて行かれるのだが、最初から最後まで絶望の中に置いて行かれたセイターの存在感はスゴイ
⇒それは生まれた時から刻まれた世界に対する絶望であり、あらゆる消費では満たされないものだった
⇒印象に残ったのはニールと主人公のドラマだったが、テーマ的にはキャサリンとのドラマにこそ重きがあったような
・いくつも並んだ風車や通り過ぎて行く電車など、時間の経過を意識したようなモチーフが多いように感じた