ヤマタノオロチ

イップ・マン 完結のヤマタノオロチのネタバレレビュー・内容・結末

イップ・マン 完結(2019年製作の映画)
2.7

このレビューはネタバレを含みます

カンフー映画としては良作だが、伝記映画としては…


従来のようなカンフー映画であれば伝記映画として考慮する事はないのですが、「イップ・マンの最期を描いた作品である事」「ブルース・リーと接する場面も多い」となれば史実と比較されることは避けられないでしょう。なので、本作に関してはカンフー映画・伝記映画の両方でレビューします。

【カンフー映画として】
ドニー・イェンのイップ・マンとダニー・チャンのブルース・リーを観てるだけで実家のような安心感があります。長年演じてる部分もありますが、アンソニー・ウォンやデニス・トー、フィリップ・ンだとキャラが弱い。彼らでないと成立しない部分はあったと思います。

4作も続くと質も下がるパターンが多いですが、本作ではそういうことは一切ありません。格闘シーン、音楽、演出においても高水準を保っています。脚本は相変わらずガバガバですが、カンフー映画としては問題ないでしょう。また、舞台がアメリカということもあり、ハリウッド作品のパロディが散りばめられています。

あと、遺影のイップ・マンが妙に若いw あまり老けたメイクをさせなかったのはドニー・イェンへの配慮だったのでしょうか?


【伝記映画として】
基本的に史実と異なっているので、伝記映画としては成立していません。本作の脚本はほぼフィクションと思って間違いないでしょう。

『イップ・マンは渡米したのか?』
本作ではイップ・マンが渡米していますが、アメリカでの記録は一切ありません。もし渡米してブルースと会っていれば写真好きのブルースが記念写真を撮っていたでしょう。

『若すぎる葉正』
息子の葉正は1936年の生まれですが、本作は舞台は1964年サンフランシスコ。彼は28歳で高校はとっくに卒業しています。

『矛盾点の多いブルース・リー』
1964年当時、ブルースは中国人以外にカンフーを教えた事で、中国人社会の長老(一説にはカンフーの組合長)と抗争の最中でした。「バース・オブ・ザ・ドラゴン」の元ネタとなった、ウォン・ジャックマンとの決闘も64年秋の出来事です。この決闘で苦戦した為に詠春拳を脱却し、新しい流派の開発に着手するわけです。つまり少なくとも64年秋までは詠春拳で闘っていた事になります。ですが、路地裏で空手家をボコるシーンでは既にジークンドーで闘っています。

正式にジークンドーと称したのは1966年の事であり、開発にかなりの時間を要した事も明らかになっています。それらを考慮すると64年中にスタイルを変えるのは難しいでしょう。


『海兵隊は中国武術を必修課程としていない』
映画のラストに「2001年海兵隊は中国武術を必修課程とした」とありますが、恐らく2001年に導入された「MCMAP(海兵隊マーシャルアーツプログラム)」の事だと思われます。しかしながら、MCMAPはカンフーを含め10種類以上の武術や競技から生み出された近接格闘術です。それをカンフーと呼ぶにはあまりにも乱暴すぎる。


【総評】
70年代に亡くなったイップ・マンとブルース・リーですが、中国では近代武術家(黄飛鴻や霍元甲)と同じ様におとぎ話の題材にされると思うと少し寂しいく思えます。イップとブルースは少なくとも映像が残っている時代の武術家です。彼らをその様に扱うにはまだ早い気がします。

しかし、カンフー映画としては及第点以上でしょう。私のように深く考えると良い所が薄れてしまうので、あまり深く考えずに観て楽しんでください。



余談ですが、wikiの中国語ページには本作の監督であるウィルソン・イップがイップ・マンの三男として掲載されています。事実関係を調べましたが情報が出てきません。誰か教えて下さい。
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