ミツヤヌス

イップ・マン 完結のミツヤヌスのレビュー・感想・評価

イップ・マン 完結(2019年製作の映画)
3.5
 今回は視覚的な満足度が高く、道服は言うに及ばず、その他のファッションや舞台の町並みが格好良かった。アクションも勿論素晴らしい。毛色の違う武術家が何人も登場するために、バトルシーンの味わいはそれぞれ違うけれど、やっぱりイップ・マンの格闘戦は別格。ここぞ、というタイミングで登場する、演出による興奮だけでなく、外連味たっぷりのキレッキレのアクションが味わえる。他の武術家が、ほとんど彼の引き立て役みたいになっちゃうところは、ちょっと残念だけど。
 ストーリーは、アクションを乗せる器としては楽しめた一方、それ自体に焦点を当てると、凄まじい完成度とは言い難い。大枠は(実/弟)子と(師)父の話だが、尺に対して盛り込まれた父子関係が多いだけでなく、人種差別もテーマとして包含しており、結果として上手くまとめ切れていない印象を受けた。全体としてはやや尻切れトンボ気味で、(アウェーな環境に身を置きながら)武術に携わる中国人のオムニバス、という趣きすらある。
 本作を鑑賞していて強く感じたのは、秩序ある世界において、(突き詰めれば暴力である)拳法は、トラブルの解決手段として大いに制約があるのだな、ということだった。決闘であるとか、リアリティラインを下げるとか、ある程度の条件が整わなければ、暴力では問題を解決できないどころか、新しい火種を生むこともあるのだろうと。まあ、そういう話ではなかったし、むしろ、アクションをどうストーリーラインに盛り込むか、という工夫が凝らされていたので、積極的に、また納得できる形で、条件を整えにいこうとしていた映画だったと思う。ただ、ラストバトルについては、それで本当に解決としていいのか、倒すべきは本当にそいつか、という疑問が残った。
 本作も然り、シリーズを通して、外国人(特に西洋人)を、はっきりと悪役として描いている映画だと思う。実際に虐げられてきた/いるのだろうし、その描写から逃れられないことは理解するものの、ややナショナリスティックな感じはする。
 それから、音楽についても触れておきたい。本作のサウンドトラックは川井憲次が担当していて、その格好良さについては改めて触れるまでもないけれど、本作における劇伴は、環境音ではなく、はっきり役割を持った効果音に徹していて、わかりやすくシチュエーションを説明してくれる。そうしたBGMを批判する向きもあるだろうけど、個人的にはエンターテイメント的で良かった。
 内容に踏み込んだ感想は、コメントにて記したい。