このレビューはネタバレを含みます
【 思い殺り 】
母の深い思い遣り。母が残した思い殺り。
この究極の葛藤を日本屈指の役者たちが演じるものだから、これまた深く考えさせられる。なんという贅沢だろうか。白石監督には脱帽である。
母は愛する子どもたちのための決断だった。実行して以降、自分が殺めたことを誤りだとは断じて認めない。認めた瞬間、子どもたちを本当に迷子にしてしまうから。
善悪問わず、ここまで深い思い遣りと覚悟は本当に強い女性、母だなと思った。
息子(雄二)や世間は、あれは“思い殺り”だったと信じて疑わない。母の苦渋の決断や暴力を受け続けたという子どもたちへの悲惨な背景を知らずに叩く。言葉にならない不条理がここにある。
ラストは息を呑む。息子たちが必死で母を追い、助けようとする姿に心打たれる。雄ちゃんが一番必死だったのもまた良かった。「母がくれた自由」か…。
ああ、わたしにとって、特別な人よ(ひとよ)。わたしにとって、特別な一夜(ひとよ)。