Hotさんぴん茶

9人の翻訳家 囚われたベストセラーのHotさんぴん茶のネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

前から気になっていて、やっと見れた映画。雰囲気のある映画で、見てよかった。いろんな言語を一度に聞けたのも新鮮で、楽しかった。

ポスターから既に、ミスリードが始まってるように思った。ポスターでは写真真ん中前席のイタリア人、ダリオが主人公のように見えたから。あと序盤、誰が劇中小説の作者とされているのかがわからなかった。見ていくうちにだんだんわかってきたけど。(最初エリック社長が作者なのか?と勘違いした。)登場人物の名前も、なかなか頭に入ってこないので様子見しつつ見ていた。

序盤の、劇中の小説になぞらえた会話は正直少し退屈で眠くなりそうになった。その本の内容がわからないから、少し置いてきぼりの気分。でも、だんだんこの映画内のベストセラー小説が読みたくなってきた。実際に口コミに踊らされたような感覚。この本、どっかで発行されていないのかな?そんな風に感じるリアリティ。いきなり3巻から断片的に紹介されるから、気になってしょうがない笑。そういう意味でも、この映画のストーリーに巻き込まれていったと思う。

想像以上に暴力シーンが多くて、ビックリした。暴力的になった人は、閉鎖的な空間でおかしくなってしまったんだろうか。自分ももしこんな窓もない空間に閉じ込められたら、キツすぎて数日でギブアップしそう。

明かされたトリックは、薄々想定できた内容。でも推理しながら見るのが、楽しめた。
印象的だったのは、登場人物たちの文学への愛。そのことが主題の社会派映画とも感じた。

原稿流出事件に巻き込まれた、部外者の翻訳家たちが可哀想。この人たちは、死んだりパニックになったりしてしまった。中年女性の翻訳家、エレーヌは自ら命を絶った。彼女は子どもはいらなかったといいつつ、彼女なりに子どもを愛していたことは明白。(彼女の机の上に子どもの写真と母の日のプレゼントが飾ってあったし。)

それにしてもエリック社長、色々とやばすぎ。この社長に文学の何がわかるのか?と疑いたくなる。先に書いた女性翻訳家エレーヌはこの社長に、長年温めてきた原稿を焼き捨てられた。ショッキングで、ひどすぎる。人の想いのこもった作品を葬るのは、殺人にも匹敵する残酷な行いだと思う。
(今時原稿がデータじゃないのね、というところは気になったけど。でも、そういうこともあるか。)

クライマックス、翻訳家たちがスペイン語で結束する展開が熱い。スペイン語が話せない者も、さらなる翻訳で通じることができた。こんな風にいざという時、多言語で助け舟を出せるのはカッコいい。自分も趣味の語学を再開しようかな、という気になった。

劇中、翻訳家の待遇が悪い現実が垣間見えた。翻訳家・通訳士は、個人的に尊敬している職業。誰でもできる職業ではない。この仕事の実態に詳しい訳ではないけれど、待遇があまり良くないような話を時々聞く。この貴重な職業がもっと世の中で評価され、状況が良くなってほしいと改めて思った。

ロシア語翻訳家のカテリーナ、劇中小説のヒロインになりきっていた女性。この方、「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」にも出ていた。(確かボンドガール的な立ち位置の役で。)その作品は、この映画の雰囲気とは似ても似つかぬおバカ映画笑。でも個人的に好きな映画。だからこの映画でも出会えて、嬉しかった。

■疑問点等
・真の作者のアジトにたどり着いた秘書のローズマリー。彼女がなんでそこにあった写真を見て、社長命令の実行を踏みとどまったのか。いまいちわからなかった。あの写真、ローズマリーが社長に怒られる光景とかだったか?
・あとあのアジトの部屋、高級すぎない?高額の印税収入で借りたのかな??

・原稿流出事件の主犯青年。彼は社長よりせしめた金を、結局全額社長の口座に入れたとのこと。それを見て、じゃあ協力仲間への報酬はどうする?と思ったが。それはこの主犯の青年が、ポケットマネーから支払うのかな?

・あの本屋のおじさんと、上に書いた主犯青年の関係性がイマイチよくわからない。そこのくだり、もっと詳しく見たかったかも。サラッとした演出にてこの2人は長年の大切な仲なんだな、ってことは伝わってきたけど。

・エリック社長はもともと文学を大切にしてたらしいのに、どうしてあそこまで落ちぶれたのか。そこのストーリーを詳しく知りたい。いくら金儲け主義でも、いきなり儲けのために殺人に走るとは限らないからな。