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パラサイト 半地下の家族のGKのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.2
趣味の話をしている時に
「映画好きなんですね〜どんなジャンルの映画が好きなんですか?」
という話がなることがある。

一般的な回答としては、アクションムービーやサスペンス、恋愛ものが好き/よく観るといった回答になるだろう。


ただ、直近1つのジャンルにおさまらない名作がよく観られる。
カンヌ国際映画祭でパルマドールを受賞した『パラサイト』もその1つだ。


ネタバレ厳禁の作品なのでストーリーに関しては触れないが、
(先行上映限定の、監督・キャストからのメッセージも「ネタバレしないでね〜」だけで笑った)
『パラサイト』もまた、1つのジャンルで捉えることができる作品ではない。

序盤はコメディタッチだが、中盤からサスペンス、ホラー、推理モノの要素が加わってくる。
また作品全体を通して、「貧困」「格差」という社会問題の提起をしている作品でもある。

この作品のすごいところは、それらの複数の要素を、違和感がない形で1つの作品として統合していることだ。
中途半端に作ってしまうと、結局何を伝えたい何がしたい作品かわからなくなってしまうし、1つの要素に寄ってしまうと「あのシーンいる?」といった疑問を持たれてしまうことになる。
1つのジャンルにくくられない作品を作ることは、非常に高度な脚本、編集テクニックで、簡単にできるものではない。


同様に複数の切り口で作られた作品として『チェルノブイリ』がある。
2019年(第71回)エミー賞にて作品賞を含む10部門の受賞をした、HBO制作のドラマである。

1話60分前後、5話で構成されたドラマで、チェルノブイリ原子力発電所事故の発生から事故の収拾に関わる人々(事故を隠蔽しようとする政府、影響を受ける市井の人々、被害を食い止めようと奮闘する科学者)を描いた作品なのだが、1話はサスペンス、2話はパニック、3話以降は政治ドラマと、1話毎に展開が異なっている。
笑いは一切なく、また原発事故を扱う作品ということでドキュメンタリー調となり退屈になりそうな題材にも関わらず、一気に観させてしまう魅力。
『チェルノブイリ』もまた、複数の切り口で作られた傑作だった。


ではなぜこういったシンプルに括ることのできない作品が増えているのかと言うと、2つ理由があるように思う。

・世界が複雑化しすぎていて、1つの切り口でシンプルに捉えるのが難しくなっているため。
『パラサイト』でいえば「貧困」や「格差」という問題を扱っているわけだが、その根本的な要因や解決しない要因は1つのシンプルな要素に収束するものではなく様々な要素が絡みあっている。
そのため、例えば「笑い(コメディ)」や「ドキュメンタリー」など1つの切り口だけで伝えきれるものでもない。

・様々な切り口から伝えることで、できるだけ多くの人に「社会の状況」「現実」を伝えることができる。
ホラー映画はホラー好きな人しか観ないであろうし、ドキュメンタリーも然り。1つの切り口だと見る人を絞ってしまう。

また情報過多の現代において、映画館に行って映画を鑑賞する、あるいは観きれないほどあるVDOサービスで鑑賞できる作品の中から選んでもらうという観点でのハードルも上がっている。
映画の「メディア」としての機能を最大限発揮するには、複合的なエンターテイメントの要素が求められている。


その点、『パラサイト』は期待に応えてくれる作品だと思う。
2020年の映画初めは、一級のエンタメ作品『パラサイト』をぜひ。
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