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パラサイト 半地下の家族の新品畳のレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
3.8
正直言ってしまうとポン・ジュノ作品はいくつか見ているがあまり好みではない。
今回も自分の心の奥底に深く食い込んでくるような体験は得られなかったのだが、カット・セリフ・演出のリズムが良いのでなんだかんだ最後まで楽しんで見られた。ストーリーテリングも上手かったし。
特に長回しの使い方が自然でさりげなさ過ぎて、その巧みさに驚いた。

富裕層の豪邸が丘の上にあって貧困層が平地の密集した民家に住んでいるっていう設定はよくあるが、トイレよりも居住スペースが低位置にあるというのはかなり目新しくて印象的だった。
土砂降りの中を豪邸から坂・階段を下って自宅へ向かうシーンは非常に良かったし、やっと帰宅した家の中で便器だけが水面上に出てるってかなりの絶望感がある。

タル・ベーラのニーチェの馬では終わりゆく世界で最後に残ったのは「家」だったが、この映画ではその''自分の家''が物語途中で(一時的にではあるが)消える。
住居の喪失というのは過酷さを物語る上で非常に大きな効果をもたらすし、それを起点に主人公に行き先を、物語に方向性を与える。

ニーチェの馬での「家以外の世界の消失」は、準じて家以外に行く当てもなくなる最悪な閉塞的な状況を生んだ。居住者は座標を奪われ、空間とベクトルを失う。
パラサイトでは、もちろん世界は消えない。だが消えないからこそ、登場人物たちは不可抗力とも言える世界による指針を受けてしまう。
この映画ではその指針が''寄生(潜伏)''というものとして現れたのだろう。

行く末が絶望であること、それを社会に強いられる世界。
対して、あらゆるものすべてが完全に消失に向かう世界。

どちらが物語の主人公たちにとって救いがあるのだろうか。
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