蛇らい

パラサイト 半地下の家族の蛇らいのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
3.9
おそらく本年度のアカデミー賞作品賞にノミネートされた中で、1番バランスの取れている作品だと思われる。バランスが取れているということの良し悪しは別として。

寄生という視点で考えると、弱者の存在によって良い心地を味わっている方もパラサイトだよなあとも思う。寄生して寄生されてという構図が妙に面白かった。コメディでもあり、ホラーでもあり、社会派でもある歪さが、掴みどころのないビターな味わいだ。

真面目な顔をして社会問題に切り込むスタイルなだけの作品ではない。しっかり映画の持つ楽しいという側面にも配慮が見られ、一級品のエンタメ作品に落とし込めている。意外にこれが難しい。どちらかに振ってしまうのは楽だが、見事に両立させてしまうのは監督の技量に他ならない。

豊富なアイデア、導入から着地までのスムーズな流れ、飽きがこないように数段階に分けて行われる展開のギアチェンジ、これらはすべての観客(普段映画をあまり観ないミーハー、逆にめちゃ観る映画ファン)を巻き込んで双方が各自の楽しみ方ができるような演出がなされている。

映画産業において、大衆性と芸術性が相入れることなく平行線を辿ってしまうことは、発展の停滞を招いてしまう。そんな中で評価、興行ともに成功したこの作品(しかもアジアの作品)に日本の映画産業の発展につながるヒントが隠されていると思う。単にポン・ジュノの作家としての才能がすごいというのは間違いないが、今の状況で良いはずがない。

邦画で作家によって観る作品を選択する文化が残っているのはアニメーション作品くらいだ。映画を観るときに監督のキャリアや近年はどんな作品を撮っているのかなど関心を持つ人はほぼいない。

何を観ればよいのかというガイドラインの欠乏、それに伴い養われない映画的な素養。この負のループを抜け出すにはまず、正しい入り口に誘導する係が必要だ。映画は音楽ほど感覚的に楽しめる芸術ではく、ある程度の文脈の租借も必要とされる。その作業が楽しいと思えるように仕向ける作品づくりとプロモーション、さらにより幅広い範囲に広める存在、場所も必須だ。
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