ワンコ

風の電話のワンコのレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
4.5
乗り越えて行くこと
駅で知り合った少年と、風の電話に向かう坂道で、曇り空から太陽が差してくる場面が印象的だ。

ハルに、森尾が、
「死んだら、誰が家族のことを思い出してあげるんだ」と言う。
森尾は、原発が多くの人を不幸にしてしまったことを自分の責任のように感じ、自身も家族を亡くしたことによって、ずっと居場所を探し続けていたのだ。
森尾がハルに言った言葉は、自分自身に向けた言葉でもあったのだ。

坂の途中、ハルが少年に言う。
「お母さんに電話しなよ!心配してるよ!」
頼りなかったハルが、ちょっと大人になった。
一歩踏み出すのに時間がかかっても良いじゃないか。
もしかしたら、二歩目も同じかもしれない。
でも、確実に前進してるのだから。
「今度会う時は、ハルはお婆ちゃんになってるかもしれない」
電話のメッセージは生きていこうする決意だ。
家族は海の底や空の上にいるのではない。
ハルを近くで見守っているに違いないのだ。

僕は東北の出身ですが、山側なので震災の被害はありませんでした。
両親によると停電程度で、ライフインフラに問題はなかったと。
ただ、友人や知り合いの中には、親しい人を亡くした人がいたり、家が全壊認定で疎開せざるをえない人もいました。
好きだった中華料理屋も寿司屋も流されました。
中には、津波が来たのでトラックの荷台に逃れたら、それが船のように漂い、横転することなく内陸まで運ばれた助かったという人もいました。

ただ、思うに、作品の中に散りばめられる、ボランティアをしていた外国人が入管施設に収容されてしまった話や、疎開した子供が原発いじめにあったという話は事実なので、一体この国はどうなったんだと。

舞台挨拶付きの上映回を鑑賞しました。
ベルリン映画祭では、若者に向けたテーマの映画として上映されるよう。
日本でも、若者が観たら良いのに。
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