mai

罪の声のmaiのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
3.9
これは佳作中の佳作だった。
もちろん、脚本やキャスト陣が良いというのは大前提なんだけど、何よりも原作が良すぎるんだと思う。実際の事件を丹念に調べて、さらにそれを誰も傷つけず、それでいて現実かのように錯覚させるほどのリアリティを持って小説として生み出す…この映画のヒットの最大の要因は原作者の塩田さんの功績によるものだと思う。
次々と明らかになっていく事件の内容の複雑さに反するかのように、そこには「無知の子供が使われた」という凄く個別的な問題が横たわっていて、その子ども達のその後に目を向けるという独特さでこの映画は進んでいく。
自分は何も知らされずに、ただ大人の言うように話しただけではあったけど、そのせいで社会は大きく揺り動かされ、多くの場所で甚大な被害が出た。その罪の仕組みは大人が作ったけれど、それに加担した自分もやはり罪を持ち合わせているのだろうか。頭では「自分は子供だったのだから」と分かってはいるものの、その罪の大きさに目を背けずにはいられない…そうやって事件を追う姿がリアルだった。
そして、人生を奪われた子供と、自分が利用されたことを知らずにいたからこそ自分の人生を歩めた子供…同じ「実行役」であったはずなのに、真逆ともいえるような生活を過ごしてきた子供たちとはいったい何が違ったのか…その不条理さに観客が怒りを覚えた段階で、新聞記者が計画の発案者である主人公の叔父に「あなたは大義名分を振りかざしているだけで、過去の自分から抜け出せない化石のような人だ」と言い放つ。
それで全てが流されるわけではないし、子供たちの人生が取り戻せるわけではない…でも過去を受け入れ、今を生きるからこそ、人は少しずつ少しずつ前に進んでいけるのだと思うし、過去の自分を迎合しつつも、現在の自分と切り離された存在として見つめることが出来るのだと思う。
悲しいストーリーではあるけれど、最後には「人生」に希望を持たせてくれていて…どこまでも素晴らしかった。そして、マスコミの功罪や、その責任・罪の滅ぼし方もズバッと言いあげるのも良かった。
キャストに関しては、もう見ずとも最高すぎるのが分かってた!笑
一番の収穫は、小栗旬はやっぱり演技派だったということ。そこに尽きるかも。地味な役どころだけど、周りの豪華さに気おされず、完全に主役として映画に君臨してたあたりがさすがだなと思った。
ちなみに、映画を見て原作を衝動買いしたのだけど、その分厚さに怯んで読めてない。笑
mai

mai