建野友保

アメイジング・グレイス アレサ・フランクリンの建野友保のレビュー・感想・評価

4.5
1972年1月、ロスの教会で2日間にわたって行われたアレサ・フランクリンのゴスペルステージを記録した映画。父親の導きにより教会でゴスペルを歌い、経歴を重ねてきた彼女にとっては、思うところあっての原点回帰の機会でした。
72年当時のソウルミュージックはといえば、黒っぽさを控えた甘くて大衆的なコーラスミュージック(フィラデルフィアソウル)が中心。間もなくディスコミュージックが主役の時代に入り、彼女はどちらかというと旧世代のミュージシャンという風に見えていたものです。「ソウルの女王」の称号が与えられていたことは知ってはいましたが、教科書的な情報として知っていたという程度だったでしょうか。
今回の映画は、そんなかすかな印象を根底から覆し、「ソウルの女王」がアレサにこそふさわしいことを、否応なしに知らしめてくれました。その歌声には心の底から痺れ、とても貴重な体験をさせてもらったと感じています。とくにジェイムス・テイラーの「ユー・ガッタ・フレンズ」のゴスペルカバー、そしてタイトルにもなっている「アメイジン・グレイス」は、ソウルミュージックの前身でもあるゴスペル、いや教会ミュージックの土台の揺るぎなさ、キリスト教への強い信仰を改めて知らしめてくれます。
ミック・ジャガーとチャーリー・ワッツが2日目に見に来たのは、ちょうど「メインストリートのならず者」のミックスダウンをロスでやっていて、噂を聞きつけて駆けつけたということなのかな。所在なげに座っている写真も出ていますが、一瞬、最前列でノリノリになっているシーンもあって、彼らにとっても強い印象になったのではないかなと感じました。
まあともかく、素晴らしい記録映画でした。半世紀を経たいま、観ることができて、とても幸せに思います。
建野友保

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