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おとうとのぉゅのレビュー・感想・評価

おとうと(2009年製作の映画)
4.2
2021年 鑑賞 21-108-3
幸田文先生の小説が原作。「男はつらいよシリーズ」等の山田洋二監督・脚本作品。山田監督は、「おとうと」(60)を撮った市川崑監督に捧げられた作品で、いくつか市川監督作品のオマージュがあるそう。

結婚してすぐに夫を亡くし、小さな薬局を営みながら、女手ひとつで子育てをした姉・吟子(吉永小百合さん)と、役者としての成功を夢み、無為に歳を重ねてしまった風来坊の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶さん)の物語である。鉄郎は吟子の夫の十三回忌の席で酔っ払って大暴れし、親類中の鼻つまみ者となっていた。以後10年近く吟子との連絡も途絶えていたが、娘のように可愛がっていた姪の小春(蒼井優さん)が結婚することをたまたま知り、披露宴に駆けつけ...

あらすじやキャストさんや山田洋二監督作品(現代劇であるということも)ということだけでみれば、風来坊の兄弟といえば... 寅さん(さくらからすれば兄なんだが)の別の切り口か?佐藤蛾次郎さん、笹野高史さん、北山雅康さんたちと、若干の「男はつらいよ」の香りもあるし... でも原作あり、以前に市川崑監督の作品もあって、市川崑監督に捧ぐ作品だということもあるので、一概にこうだとも言えない雰囲気だ。長くなったが、鑑賞して、この辺の状況も観ようと思う。

冒頭に「大阪万博」「男はつらいよ」「タイガースの優勝」「御巣鷹山の墜落事故」「国鉄民営化」... 時代背景がしっかりと伝わる。「男はつらいよ」の映像なんて、監督らしい。

笹野高史さん、森本レオさん、加藤治子さん、茅島成美さん、キムラ緑子さん、近藤公園さん、石田ゆり子さん、横山あきおさん、小日向文世さん、佐藤蛾次郎さん、小林稔侍さんら、日本のベテランの名バイプレイヤーのみなさんが、しっかり脇を固め、しっかり者の姉・吉永小百合さんと、鼻つまみ者の弟と・笑福亭鶴瓶さんを支えている。こんな人情味溢れる作品は、やっぱり山田洋二監督だ。

鉄郎のあのセリフ回しや、吟子と鉄郎の関係が寅さんとさくらのようだ(恋愛や所帯の話や、お金のこと)。そこに天気が加わり、吟子の感情と天気がリンクしていて... やはり、あのにおいがある...

鉄郎のあの咳... 長い間の疎遠... 救急車... 名づけの理由... みどりのいえ... 通天閣... 焼酎... 笑顔... 再婚...

“姉ちゃん おおきに... おおきに...”
あの鉄郎の顔が... それだけで悟ってしまう... 鍋焼きうどんのシーン、リボンのシーンからの姉弟の会話、最期まで人がいてくれることが幸せ、鉄郎のVサイン、灯りの消えた通天閣...

切り口を変えた寅さんとさくらのようにも感じる、市川監督への愛をも感じる、そんな賢姉愚弟な人情味たっぷりな日本の胸熱ヒューマン作品だった。
最後のおばあちゃん(加藤治子さん)の言葉が刺さる。
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