Fumi

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊のFumiのレビュー・感想・評価

4.5
感想記入日2022.3.20
劇場で2回鑑賞。あんなに多くの人物が出てきたのに、観終わるとすでに全員に愛着を持っている。ニューヨーカー誌をオマージュした雑誌社とかつてのフランス映画のような設定を舞台にウェスアンダーソン監督はいつも完全ではない私たち人間社会を悲哀とユーモアをもって肯定してくれる。素晴らしい小説を読んだ気分。
付箋を貼り、何度もページをめくり直したい。


個人的に「色彩」のウェスがモノクロを多用したことやかつてない空間演出に衝撃を受けた。
彼の作家性と美意識は単にファッションで消費されるものでないことを改めて示してくれた作品だと思う。00年代のダウナー系でゆるいのウェス作品もやっぱり好きだがスルメのように何度も噛み締め引用作品も観直したくなる今作も別の快楽を感じる。

フランシス・マクドーマンドが初めてウェスアンダーソンのの「アンソニーのハッピーモーテル」を観た時、ジョエル・コーエンに「似たようなことをしている監督がいたよ」と伝えて、それ以来全作品を観ているというパンフレットの内のエピソードに泣けた。
毎回彼の作品は、出演者側の監督への信頼と、監督の出演者に対するリスペクトを感じる。

ウェスアンダーソン作品の好きなところは生きる者全てを等価に描いているところであり、人間の滑稽さや暴力性の先に、たしかな希望や優しさを信じているところだ。
時代遅れだと思われる忠誠心や家族愛などを、初期の作品からあくまでも一貫してスタイリッシュにファンタジー的に描いているところも彼の作家性の好きなところだ。

そして、今作品では新たに監督の偏愛する文化、とりわけそれは文芸誌のニューヨーカーやフランス映画などの影響を強く反映させてまた新しい作風へと進化していた。

これまでの作品の方が多くの人にとっつきやすくどちらかと言うと今作は玄人向けの作品ではあったが、時間が経ってから何か異次元の世界へどっぷりと浸かりたい時などにみかえしたくなるだろう。


そして不思議と自分の好きなものに対して誰の目線も気にせずに好きだ、と表現したい気持ちにもなるのだ。
Fumi

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