持て余す

見えない目撃者の持て余すのネタバレレビュー・内容・結末

見えない目撃者(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

やっぱり目が見えないってのはとても不便だな。

この物語ではなつめと日下部だけが頭抜けて優秀で、だけどなつめには大き過ぎるハンデがあるから、日下部の独壇場でなにもかもやりたい放題。吉野刑事も木村刑事もとてもいい人だけど、残念ながら有能とは言いかねる。

操作を主導するのはなつめと春馬のふたりの一般人で、しかも視覚障害者と学生というおよそ誘拐事件に立ち向かえるとは思えない人員だ。なつめは将来を嘱望された元警察官とはいえ、警察学校を卒業する頃に事故からの退職なので、元警察官とは言いがたい。

そんなふたりがずんずん真相へ近付いていくのだけど、真犯人はそれほど犯行を隠そうともしていないので、やはり現職の警官たちが無能過ぎる。

──と、こうした構図のサスペンスってご都合主義(ご都合主義なとこもあったけど)なことが多いし、駄作になりやすいのだけど、この作品は決して駄作じゃないし、なんなら面白かった。

なつめの視覚障害者としての視覚をイメージした部分は面白かった(これリメイク元にもあるのかな?)し、少し現実感の薄い(作り物っぽいということでなく)どことなく知らない日本な感じの雰囲気とか、日下部──浅香航大とか。

そう。浅香航大のサイコっぷりは特筆ものだった思う。この手の役って映画でもドラマでも派手で見栄えがするから散々やり尽くされているし、新味なんて出しようがないし、役どころとして以前よりもかなり難易度が高くなっていると感じる。

この物語の日下部も、特に目新しいところのない死に執着するサイコキラー(このフレーズ自体にもう気恥ずかしさすらある)で、無能な捜査官を尻目に躊躇いもなく罪を重ねていく。吉野と木村が無能過ぎなのも手伝って、やりたい放題のイージーモード。

サイコ殺人鬼が急に昂ったり、いかにも様子のおかしい感じを出したりのテンプレ演出だとゲンナリするところだけど、浅香航大はあんまり喋ることもせず終始淡々としていて、快楽殺人者の筈なのにどちらかと言えば暗殺者みたい。この人の出演作あんまり見たことがなかったけど、とても存在感があって感心した。

それから、なんと言っても吉岡里帆だ。設定的には有能過ぎてかなりファンタジーな存在になっちゃっているのに、盲目の元警察官のなつめをなんとか着地させている。なぜか誰もいない地下鉄構内を犬と逃げたり、無敵の殺人鬼と対峙したり、大忙しだ。

なんでこんな無理筋にしたのかは不明だけれど、これはこれでなかなかの見応えだった。電気をショートさせて真っ暗にするところ「おおッ」ってなった。

それにしても目が見えないのは不便だし、映画やドラマを見られなくなるし、小説や漫画も読めなくなる。これは大変な恐怖。実生活が不便なことより何倍も怖い。
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