SANKOU

はちどりのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

はちどり(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

顔を知っている人間はたくさんいるが、心を知っている人間はどれくらいいるだろうか。これは主人公のウニが通う漢文塾で、彼女が心から慕うヨンジ先生が教える漢文の内容なのだが、人の心を知るということは本当に難しい。
些細なすれ違いが決定的な溝をつくってしまうこともあるし、本人には悪気はなくても相手を深く傷つけてしまうこともある。
とても多感な年頃のウニを取り巻く環境は複雑だ。家族は権力をふりかざそうとする父親を筆頭に険悪な仲だし、担任の先生も絵に書いたような生徒を抑圧する嫌な男だ。カラオケに行くのも恋愛をするのも不良のすることだ。幸せな人生は有名大学を出ることの中にしかない。
これでは反感を持ちたくもなる。今でも韓国は過剰な学歴社会であるし、日本に比べても家父長制度が根強く残っている。
ウニの父親は二人の姉妹には目もくれず、長男にばかり期待をかけている。そのプレッシャーからか、兄は親の見ていないところでウニに暴力をふるう。
ウニの母親は、自身が学力はありながら家庭の事情で大学へ行けなかったことから、ウニには何としても間違った人生を歩ませまいとする。大学を出ることが一番大切なことだと考えているのは彼女も同じだ。
まだ幼いウニには恋人がいるが、彼も親の意見には逆らうことが出来ずに彼女を裏切ってしまうことになる。
親友にも冷たい仕打ちを受け、自分を好きだと言っていた後輩もあっさり心変わりしてしまう。
息苦しい毎日の中で、もがけばもがくほど少しずつ綻びは大きくなっていく。ストレスからかウニの耳の下にしこりが出来てしまった時だけ、家族みんなが今まで真剣に向き合わなかったウニを心配するようになり、彼女にとってひとときの安らぎになるのは皮肉だった。
しかし手術が終わればまたいつもの日常が戻ってくる。彼女にとって、どんなことがあっても変わらず味方でいてくれたのはヨンジだけだった。
彼女が辛いときには両手を広げて見つめるのだとウニに話すシーンは心に残った。
どんなに絶望的な気持ちになっても、人には指を動かす力は残っている。
一人の少女の青春を描いた作品だが、金日成の逝去、都市開発による住民の立ち退き問題、ソンス大橋の崩壊など、1994年当時の韓国社会を象徴する出来事が、当時の若い人たちの心にどう影響を与えたかも描かれている。
何度呼び掛けても振り返らない母親や、ウニの診察に付き合った父親が突然涙を流すなど象徴的なシーンも多い。
見ごたえのある内容ではあったが、キム・ボラ監督の自伝的な要素も強い作品であり、やや個人的なメッセージに共感できない部分もあった。
主演のパク・ジフの真っ直ぐな瞳が綺麗で、とても可愛らしいと思ったけれど、タイトルのハチドリのように見た目が可愛らしいからといって、なめてかかってはいけない。
彼女は苦しい状況でも精一杯生きている。可愛らしいからと見くびっていると痛い目を見る。
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