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はちどりの燦のレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
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他の方も指摘していたが,家族を殴る兄や父が家族を思って慟哭したり、兄は生徒会長選挙や名門大学進学への重圧の中で生きていたりと、家父長制は女性だけでなく男性を縛って苦しめていたことが表現されている。「傷痕」が何を意味するかを理解することはできなかったが、主人公の少女ウニだけでなく父親までもが傷跡を白い布で覆っていたことは家父長制が男性をも傷つけていたことを示しているように思える。また、崩れ落ちた橋は高度経済成長期の社会の脆さを象徴しているようだった。

以上では90年代の韓国社会という視点で記したが、この作品はウニという少女の視点で見えてくるものが丁寧に映し出されている。その証拠に、彼女を慕っていた後輩の心変わりの理由も、彼女の恋人の背景も分からず、様々な別れをウニと同時に唐突に経験しているような気分になる。

学校も家も居場所ではない彼女は辛い立場にいるはずだが、作品全体で死のイメージが繰り返されるなかで、指を使いつつ痛切なまでに生を身に纏う彼女が羨ましかった。(鼓動のような劇伴も印象的だった)心から信頼する年上の人との切実なやりとりも、溢れんばかりの生命力で(揺れる若葉)好きな人と見つめ合うのも、痛みを伴いながらも生を謳歌しているようだった。ただただ羨ましいと同時に彼女と同じように生きていた戻ることはできぬ15歳の日々を思い出して、何かを失ったような気分になった。

他者と自分との境界をしっかり持つ輪郭のはっきりした少女の強さに惹きつけられた。彼女の出演作をもっと見たいし、はちどりはもう一度観に行こうと思う。
燦