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ブルーノート・レコード ジャズを超えてのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 ブルー・ノートの音楽は優れた工業製品や共通する認識に基づく優れたプロダクト・デザインのようであり、それでいて各人の集合知に基づく芸術だった。それはナチスの迫害から逃れ、アメリカにやって来た2人、アルフレッド・ライオンとフランク・ウルフにより設立された。レーベル自体は2021年現在も存命だが、私にとってブルー・ノート・レコードとは彼らが全ての権利を米リバティー社に売却する1966年までを指すと思っている。だから1500番台や4000番台は8割方揃えているし、DJなのでBNLA品番のレコードもある程度揃えているが、その後のブルー・ノートにはあまり興味が湧かないのが正直なところだ。2000年代のブルー・ノートはロバート・グラスパーやMADLIB、ノラ・ジョーンズくらいしか持っていないのだが、今作はロバート・グラスパーが指揮した21世紀のブルー・ノート・セッションの様子からスタートする。彼らは名門ブルー・ノートと契約したことを誇りに思い、かつてレーベルで傑作を録音したジャズの巨人たちへの賛辞を惜しまない。

 音楽ドキュメンタリーというのはビギナー向けの編集かマニア向けの編集かに大別されるが、今作はブルー・ノート・レコードの歴史をビギナー向けにわかりやすく解説する。例えばジョン・コルトレーンは僅かに『Blue Train』1枚しかブルー・ノートには吹き込んでいないが、ジャズ史においてあまりにも重要なためある程度の時間を割いて紹介する。だが枚数は捌けなくても、レーベルにとってあまりにも重要なセロニアス・モンクとアルフレッド・ライオンとの蜜月関係にもかなりの時間を割いていて、非常にバランスの取れた編集が為されている。その黄金時代は50~60年代だけに多くの巨人たちが既にこの世を去っているが、90歳をとうに超えたルー・ドナルドソンがかすれ声になりながら当時の思い出を語り、ウェイン・ショーターや新主流派だったハービー・ハンコックが並んでインタビューに答えていてマニアにとっても見逃せない。おまけに2016年に亡くなったルディ・ヴァン・ゲルダーの晩年の姿も登場し、思わず涙腺が緩む。79年に一度歴史が途切れたとはいえ、約70年の歴史を数えるレーベルを1時間26分で網羅するにはあまりにも尺が足らないのだが、リード・マイルスのアートワーク、そしてフランク・ウルフの美しいモノクロ写真も含め、20世紀の傑作録音と美しいジャケットの数々が矢継ぎ早に語られる様子は、まさにアメリカの20世紀最大の芸術的功績を振り返るもので、凄まじく壮観だ。
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