しもんぬ

愛欲のセラピーのしもんぬのレビュー・感想・評価

愛欲のセラピー(2019年製作の映画)
4.2
中年期特有のアイデンティティ危機に直面した女性作家が、置き去りにしてきた過去の自分と向き合い、対話し、今の自分とも折り合いをつけながら、この大規模定住社会を成りすまして生きていくと決める。(対話=ヒアリング&執筆/成りすまし=適応したフリ=身体性を失わない)

中絶か出産かで悩むマルゴに過去の自分を重ね、フラッシュバックする記憶にシビルが見たものは、置き去りにしてきた本来の自分…ともう一つ、今の自分だからこそ見える「当時は気付けなかった」こと。この「気付き」が精神に深刻な危機的状況をもたらす。そしてそこに今の自分が通うアルコール「依存者」の集会映像が重なる。

女性映画監督のミカは正直な言葉を吐く人だ。過去を振り返ることとか嫌いそうなタイプに見える。でも彼女は今、離島火山で若者同士の純愛映画を撮っている。撮影中マルゴが意味もなく笑いだした時、「耐えられない!」と言って海に飛び込んで帰ってしまった。向き合いたくても向き合えない人なのかもしれない。注目すべきは演技指導中、シビルがずっと後ろで大きく頷いているところ。ミカと今のシビルは年齢的にも大いに通じ合えそうだ。

そんなミカとマルゴの共通の男がイゴールだ。年齢差のある女性二人の間でなんとか折り合いをつけようと煩悶する彼は、ある意味今のシビルと同士だ。彼ともシンクロしておく必要がある。いや、ない。
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