mai

燃ゆる女の肖像のmaiのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.5
暗そうなテーマだったし、最近はLGBTQ+が無意味に消費されているような気がして、なかなか見る気が起きないんだけど、この作品に関しては確実に傑作のひとつに数え挙げられる匂いがしたから観に行った…もう大正解!
確かに、性をかなりの部分で強調していて、別に必要なくない?という部分で女性の裸体を示したり…と結構きわどいを超えたあからさまな演出が目立っていたのだけれど、そういった「狙った演出」が全然嫌じゃなかった。むしろ、そのあざとさに気付いているのに、いつの間にか物語の中にぐいっと引き込まれて抜け出せなくなっていた。
女性のみの世界、あざといまでの「女性」という性の強調…意図的な表現だと観客に分からせたうえで、それでもなお引き付けて離さないというのは素晴らしいと思った。というか、こういう演出や表現、題材が好きなあたり、やっぱり私はフランス映画が大好きで仕方ないんだなと思った。笑

さらに、全ての要素が2人の恋愛の要素に繋がっていくのも良いなと思った。
画家はモデルを丹念に観察するけど、それは描かれる側のモデルに同じことが言えて、モデルも画家を見つめ続けている…前までは、仏頂面だったのに、今ではいたずらげな表情で微笑んでくれる…2人の思いの高まりが観客に伝染するかのように仕向けている演出も良かった。さらに、音楽がほとんどなかった点も、2人の感情により密接にフォーカスできてよかった。なんといっても、いろんな生活音が紡ぐ、静かででも情熱を秘めたやりとりというのがたまらなく甘美だった。

ラストは、きっと2人がお互いのままならなかった恋愛感情をあの瞬間に昇華できた…そういうことを描きたかったのかなと思った。女性同士が許されるわけもないし、自分たちもその関係性の限界に気づいていて、でも諦めきれないし、いつでも心のどこかに燻っていたのだと思う。でも、はじまりのあの音楽を聴くことで、自分の中で思い出として消化されようとしている相手の存在に気付いて、初めて自分の感情に向き合えたのだと思う…だからこそ、涙を流しつつも、どこか吹っ切れたような表情になれたのだと思うし、「これが最後の再会になる」と思えたのだと思う。2回再会を果たしているわけだから、もしかしたら死ぬまでにあと数回会うことになるかもしれない。でも、その時はもうお互いにお互いを「過去のある一点で交わった人」という過去の人として認識して、「再会」という仰々しさが消えた「すれ違い」に変化しているのかもしれないなと思った。

もうあざとさのオンパレードなのに、一度掴まれたら全然離してくれなくて。観終わった後もその余韻に浸ってしまう…そんなどっぷりと浸かれる世界観が大好きな作品だった。
mai

mai