橘

燃ゆる女の肖像の橘のネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

「静」と「動」の対比が楽しめる映画。

極限まで音楽は削られ、ただ渚や雨の音、衣擦れ、そして油をのせた筆の音が響く。
画面に動きは少なく、シナリオのテンションの上下もアメリカ映画と比べるとかなり平坦に感じる。

しかし一コマ一コマの絵は中世ヨーロッパの絵画に引けを取らない美しさで、フランス語の響きと相まってどこか美術館にいるかのような感覚を味わせてくれる。
また主人公である画家のマリアンヌの赤いドレスとエロイーズの青いドレスの対比が美しさを際立たせているように思う。

印象的な色の使い方をされているのが祭りのシーンで、静謐を表すような青が火、つまりマリアンヌという赤い存在に燃やされていく。
この祭りは所謂「魔女」たちのものであろうが、エロイーズたちの住む島で描写される島民の様子はこの魔女だけである。

フランス映画の撮り方はハリウッドと比べるべきものではないと思うけれど、これがNetflixオリジナルならラストシーン近くの画廊のシーンでエロイーズの肖像画に“28ページ”を見つけたあとのアップで終わっていたんだろうな、と思った。
その後の“最後”、エロイーズがヴィヴァルディを聞きながら悲しみ、泣き、また微笑むシーンはいささか長すぎるような余韻であったが、フランス流はこうなんだろうか?

最近のこの手の映画は「マイノリティとマジョリティの共存」をテーマにしたものが多く、若干プロパガンダ味すら帯びているように感じてうざったかったけれど、この映画はシンプルな欲求で出来ているような気がして気持ちが良かった。
この図が撮りたい、この空気が見たい。
そういう欲求的な部分を見ても中世的な美しさを持っているような気がして。

またこれは完全なる妄想だけど、ラストシーンのエロイーズが泣くシーンは恐らく演者当人の回想なのでは?と思う。
この映画以前、監督とエロイーズ役を演じた女優は長年公私共にパートナーであり、この映画は“ミューズ”としての関係に区切りをつけるものだ、といくつかインタビューで述べられている。
どこか監督と演者の間にも、エロイーズとマリアンヌのような思い出すべきものがあったのかもしれない。

究極の“私映画”であるかもしれない今作は、そんな苦さと後悔を全部波の音と絵画的構成で包み込んでいる。
橘