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燃ゆる女の肖像のbennoのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.2
セリーヌ・シアマ監督作品4作目…。

絵画教室に置かれた1枚の絵『燃ゆる女』…その絵を描いたマリアンヌ(ノエミ・メルラン)の回想で始まります…。

18世紀のフランス、ブルターニュ地方の孤島…望まれない結婚を控える貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)と彼女の肖像を描く女性画家マリアンヌの10日間…"肖像画を描き終わるまで" …予め終わりの決められたふたりが気持ちを募らせながら過ごす静かな日々を映します…。

淡々と秘めた想いを抑圧するシーンがとても多い作品…空気感や表情…何より彼女たちの"視線"が複雑な感情を可視化します…。

フレームの中のマリアンヌとエロイーズ…画家とモデルの互いの"視線"の盗み合い…振り向き、振り向かせる…ふたりの構図が素晴らしい…ジャケのタイトル…反転した『肖』の文字も粋…。


マリアンヌは肖像画を完成させるも…エロイーズはそれを拒絶します…。

« La fait que ce ne soit pas proche de moi, que je peux comprendre. Mais ce n’est pas près de vous. »
 この絵は私に似ていない…あなた自身とも違う…。

そしてふたりは親密な関係を築きながら、マリアンヌは再び絵を描くのです…。

封建的な時代に閉じ込められた女性たちの同性愛は勿論、許されるものではなく…抑圧され燃え上がる想いを暖炉や蝋燭の炎というモチーフで表現するのも見事…

また、フランス語には相手を表現する言葉がふたつ…vous(あなた)と、関係が近くなるとtu(君)という表現を使います。彼女たちは体で繋がれていてもお互いをvousで呼び合い精神的に抑制をかけている切なさが伝わります…。


  〜〜〜⚠︎以下ネタバレ含みます⚠︎〜〜〜








作中語られるギリシャ神話のオルフェの物語…マリアンヌとエロイーズの別れはオルフェとその妻の別れと重なります…。

振り向いてはいけないという約束を守れなかったオルフェ…妻が心配になり振り向いてしまいます…そのことで妻は命を落とすことに…

振り向いた行為を…
メイドのソフィはオルフェの身勝手と言い…
エロイーズは愛ゆえの衝動…
マリアンヌは…妻への思い出…オルフェは夫ではなく、詩人として生きることを選択したのだと言います…。

ここで確信に変わりました…マリアンヌはシアマ監督自身だと…。


ラストのオペラ劇場での再会シーンは秀逸…エロイーズは"永遠の思い出"のために…"振り向かない"を選択…頑なにステージを見つめ、目から大粒の涙を流す表情はとても演技とは思えませんでした…。

ヴィヴァルディの♬四季"夏"…切なくも強い意志を感じる響きです…。


thanks to ; JTK 師匠 ✮꙳ 𓂃 𓂂𓏸
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