せ

燃ゆる女の肖像のせのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.5
詩人オルペウス(フランス語でオルフェ)
のギリシャ神話をモチーフとしたロマンス。

神話は男女だがこの映画ではそれを女性同士のふたりに置き換えた切ない話でした。


イヤイヤ決まっている結婚前の貴族の娘と
彼女の肖像画を描くために館に来た女性画家。
最初はお互い仏頂面なのだが
少しずつ距離が近くなる。
元々、画家という身分を隠し散歩の付き添い人としてそばにいたマリアンヌ。
肖像画のためにもなるべく長い間コッソリと彼女の顔を見つめるようにするんだけど、それこそが誤解とはいえエロイーズの心を動かすきっかけになっただろうし、
エロイーズそのもの、
彼女の心と体どちらも見つめ続けることで
マリアンヌも次第に彼女に惹かれていく。

2人は両思いとなるが時代も時代。
エロイーズは嫁入り前。
別れはすぐそこ。赦されることがない。

夜、ソフィと3人で詩人オルフェが出てくるギリシャ神話「冥府下り」について語らう。

「オルフェの妻が毒蛇に噛まれ死んでしまう。彼は妻を取り戻すために冥府に入り、妻の返還を冥界の王(ハデス)に求めると「冥界から抜け出すまでの間、後ろを振り返ってはならない」という条件を付けて、妻をオルフェの後ろに従わせて送る。だが冥界から出る時、不安に駆られ後ろを振り向き妻の姿を見てしまい、妻は冥府にとどまることに。」

これに対し酷い話だとソフィは言うが
マリアンヌは、愛ゆえの衝動であるとに加え
「オルフェは妻ではなく
妻との思い出を詩人として選んだ」
と話す。(後で語れるようにってことかな?)
エロイーズは「妻が振り返ってくれと誘惑したのでは?」と言う。

まさにお別れの時、マリアンヌが現実から逃げるように館から出るシーンで、
後を追ってきた純白に身を包んだ彼女に「振り返ってくれないのか」と声をかけられたところ、振り返ってしまう。
あの彼女たちの最後と同じ。エロイーズが妻でマリアンヌがオルフェ?
マリアンヌは画家として選択をし絵で彼女を表現し思い出すことになるのかな。
実際、最後の展覧会でオルフェの別れのシーンを描いた絵(妻側は純白を身に纏っている)やマリアンヌの自画像が描いてある本の28ページに指を挟むエロイーズの肖像画が出てくる。

2人は結ばれない。

コンサート会場で2人は再会(とはいうものの、彼女が会場にいることにマリアンヌが一方的に気づくだけ)。
マリアンヌがこれが好きとエロイーズに伝えたヴィヴァルディの「夏」をコンサートで聴く彼女は静かに声を殺しながら泣く。
マリアンヌを思い出しているのだろうが、
館での日々とは違い、マリアンヌの方を見ることはなく、2人の視線が交わらない。
完全に2人の運命がすでに分かれていることを意味しているのか...
振り返らなかったと言う台詞は
エロイーズは2人の別れを認められないからなのか...

計算し尽くされた構図・
音楽の使い方・音の拾い方。
映画そのものが美しい西洋画のようだった。
それゆえに女性の裸体が多く出てくる。
マリアンヌが彼女自身の裸の絵をエロイーズのために描けるよう参考のためにエロイーズの裸を見るんだけどお股のところには鏡を置くというなんか唐突にシュールで、いかにも芸術的発想によるものと言うか、偏見だがフランスぽい映像に苦笑いしてしまった。
(鏡を置く理由は、自分の顔だけは鏡で本物を見れるように、ということだろうが他にも方法あったろうに。)

それに、あの時代はパンツ履かないの?(脇毛そのままなのは、外国の方はそういう人多い気がするから、わかるけど)
これまた唐突にマリアンヌのシモがスッポンポンだったのでびっくり。ぼかされてたけどはっきりわかるよ...

ソフィの堕胎やマリアンヌの生理は何を意味していたのだろうか。堕胎シーンは痛々しかった。やめて〜泣

あの脇に塗ったのはなんなの?

私のロマンス映画みる時の懸念要素、
「愛情表現」ですが、コレはキス程度で激しい性描写はないものの裸体は多く、堕胎シーンや乳頭はあるので慣れてないと胃、がモヤつくかもしれない。(心臓でもいい。)

エロイーズが他の人のものになることがわかっているが故のマリアンヌの焦燥感の表現がいちいちお洒落。
幻覚で純白ドレスに身を纏ったエロイーズを何度も見るがそれが最後現実、本物となり
自分の閉じるドアで見えなくなる。

そのほかもエロイーズに対する気持ちの高まりを表すかのようにドレスが燃えるシーン。

映像そのものは派手でないし、音楽も使われたのは2曲のみらしく静か。しかし確かに生まれた情愛を感じることができる芸術的な演出に恍惚とする。


結ばれない2人を
ギリシャ神話風に描くなんて
なんて美しい映画だろうか。
比較的見やすいLGBTQ作品かと思います。

一つ一つの動きが丁寧で
その音もよく拾ってくれる映画なので
鑑賞後は少しの間、わいらの日常の動作も
丁寧になる効果つきです。多分。
せ