ワンコ

名もなき生涯のワンコのレビュー・感想・評価

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.5
【曖昧な正義と客観性】

この映画を観て、僕達の正義とか、客観性が如何に曖昧で、ご都合主義なのかを考えてしまった。

信念や勇気に心を揺さぶられた他に、何かしっくり来ない感想もあるように思う(低評価ではなく)。

第一世界大戦後、当時の米大統領ウッドロー・ウイルソンが主導して、「民族自決」がヴェルサイユ条約の原則となり、欧州を中心に多くの国が独立し、オーストリア=ハプスブルク帝国は解体され、東欧にも小国が複数誕生した。

そして、この「民族自決」を盾に、ナチス・ヒトラーは、それぞれの地域の「ドイツ系」住民の保護を掲げチェコスロバキア、ポーランド、オーストリアに侵攻。

第一次世界大戦時に中心的同盟国だったオーストリア(旧オーストリア=ハプスブルグ帝国)を、ヒトラーは当初、併合する予定はなかったとされるが、オーストリア市民が、彼を熱狂的に迎え、支持してしまったことで、同国の併合の意思を固めたとされている。

この物語は、そんな第二次世界大戦さ中の物語だ。

ナチス・ドイツの支配をなかなか受け入れようとしないフランツに、村長が演説して聞かせようとする内容を耳にすると、当時のオーストリアが、オーストリア=ハプスブルク帝国の解体で如何に心理的にも参っていたのかが伺える。
ナチス・ドイツを拠り所にしたかったのだ。

ナチスに寄付ぐらいすれば良いじゃないか。
言葉だけ忠誠を誓うのなんて簡単だろう。
しかし、村人の嫌がらせや村八分、ナチスの苛烈な圧力には怒りを感じる。

これが僕達の曖昧で、ご都合主義の客観性だ。
これは、決して中立な思考ではないはずだ。
責任の所在を隠してるだけだ。
思想や政治の話はしませんも似たもののように思う。

しかし、なんとかしっかり意見を持ちたいという人だって、このフランツやファニの置かれた状況で、もしナチスが負けたということを知らないとしたら、僕達は彼らに対してどんな解決策を提示することができるだろうか。
所詮、僕達の正義や、客観性なんて、そんな程度なのだ。

だから、戦争はダメとか、人を殺してはならないといった最低限の普遍的な価値観は必要なのだ。
そう、迷わないように。

今、オーストリアでは極右政党が台頭している。
どこと争うとかではなく、移民や難民などに対する嫌悪がそうさせているのだ。

それは他の国でも同様だ。
ナショナリズムが静かに、そして、確実に侵食してる気がするのだ。

移民や難民・移民の出所は、先進国が蔑ろにしてきた国だったりする。
欧州連合の中にあっても貧富の差など埋まらず、中核国に対して、周辺国の扱いは変わらず、半ば搾取のような状態は続いていたのだ。
中東紛争国には、特定の国が武器を売りつけ、紛争を煽り、多くの難民を生み出してしまった。
どうして豊かな先進・武器輸出国は難民の受け入れを拒否できるのか。
これは、ローマ教皇の主張でもある。

しかし、そんな根本的な問題に対応しないまま、ナショナリズムが台頭してしまう現状。
温暖化問題も似たようなものだ。

映画では、フランツの神との対話の場面が多く綴られ、遠藤周作さんの沈黙も思い出すが、こちらはやはり宗教とは、また違う普遍的な価値観を、僕達に問うているように思う。
人間は強くない。

だから、コスモポリタンとして守るべき価値観は共有しなくてはならないと思う。

説教臭くて申し訳ない。
ワンコ

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