ヘソの曲り角

レ・ミゼラブルのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.2
想像してたよりもフィクションだった。ドキュメンタリーっぽいのかと思ったけどそんなこともなく、パリ郊外に着任した警官の最悪な初日を淡々とした筆致でちゃんとストーリー仕立てに撮っていた。ユゴーのレミゼ知ってたら分かりやすいと思うのだが読んでない/見てない私は「よくできたギャング映画だな〜」という風に感じた。色んな勢力がいてある事件をきっかけにそれぞれの思惑が錯綜するという群像劇、抗争劇としての展開がうまいと思った。自警団と化したムスリム系集団、ナイジェリアだかの売春グループ、とんでもない不良クソガキ軍団で形成される勢力図のバランスをとるため彼らとズブズブの警察官。スター不在のスコセッシ映画、マフィアじゃない「新しき世界」とでも言えばいいか。「その男、凶暴につき」の前半ともタッチが似ている。「フレンチ・コネクション」とか「セルピコ」とかニューシネマ期の汚職警官ものか80、90年代のストリート映画みたいな荒み方。見てないけど「シティ・オブ・ゴッド」とかも似てるんじゃないかな。洗練されてないアウトローたちの群像劇。

起こってること自体は「ガキがサーカスから盗んだライオンの子どもを見つける」だけのはずなのにどんどん収集がつかなくなっていく。ガキと警察の小競り合いが手に負えなくなって地域のまとめ役やってる怖いにーちゃんたちに警察が助けを求めに行くが…。ドローンが出てくるなど現代っぽさもちゃんとある。んでまあ終盤一番舐められてたガキがテロリスト化して警官に報復するわけだが、変化球的に児童の体制への反逆というフランス映画の伝統のひとつを踏襲していく面白さがあった。「新学期 操行ゼロ」「わんぱく戦争」他。実際の混沌としたフランスの移民との関わり方を下地にしながらあくまでエンタメとして処理していてとても楽しめたような気がする。

難点はやっぱ結末。現在進行系の問題だから着地できない、描くべきところは全部やってるというのは理解できるがちゃんと着地してほしかった気もする。あと画のインパクトがそんなにない気がした。なんだろうな、デビュー作だからかもしれないけど全体的にどっかなんか言語化できないところでバチッとハマりきってない気がした。面白いんだけどね。

ps まあこれ末端の抗争と不満の爆発を描いてるわけだがこの外にある根本原因である構造的な貧困、差別についてまで前提として分かってないと喰らいすぎたりエンタメとして楽しみすぎたりなしてしまうような気がする。