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プライベート・ライアンのよのレビュー・感想・評価

プライベート・ライアン(1998年製作の映画)
4.3
もう出だしからスピルバーグの本気を感じる。もちろん本気で映画を作らない監督なんていないだろうが、この映画からは地べたを這うような生々しさというか、泥を噛んででも観客に伝えるのだという強い意志を感じる。「戦争の惨さ」や「命の尊さ」みたいなものを。
それらは言葉にするとひどく薄っぺらいのに、今回胸に迫る形で提供できているのは、やはり映画と映画監督の力だと言えよう。伝えきるためには過剰な演出も厭わない、それが胃もたれしないなら別にいい。この思想は非常にスピルバーグらしい。
そして戦争に限っては、どれだけやってもやりすぎることはないだろう。

実話ベースの戦争映画では、キャスリン・ビグローを始めとして、「何が起こっているのか分からない」状態になることが多々ある。一個の戦争が複数の戦闘から成り立っている以上、事実を全て届けるには頻繁な場面切り替えと時系列の行き来が必要となり、素人には全体像を把握できなくなるのだ。
対してフィクションの利点と言うべきか、本作「プライベート・ライアン」は一小隊から視点をずらさないため、展開が非常に分かりやすい。劇中の任務と同様、Captain(中隊長/大尉)では正味オーバースペックで、Sergeant(軍曹)程度の状況把握力があれば事足りる。それこそPrivate(二等兵)でもいい。これがスピルバーグの見せたかった、地べたの景色だからだ。

見せたいものと見せ方、すなわち目的と手段を適合させることが如何に大事か痛感した。その軸の通し方には、さすが世界的ヒットメーカー、脱帽である。
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