歌代

プライベート・ライアンの歌代のレビュー・感想・評価

プライベート・ライアン(1998年製作の映画)
3.8
尊厳のない死。理性が納得しなくても従うしかない命令…。
非日常な戦場において、兵士たちは段々と家族や友人のことを思い出せなくなっていって、自分と目の前の命、上から与えられる大義のことしか考えられなくなっていく。

というか、考える暇なんてない。
冒頭30分の上陸作戦がまさにそれを追体験できます。
悩む間もなく人は死んでいって、自分もいつ死ぬのかわからない恐怖を抑えるので精一杯。

あり得ない状況に順応するために人間性が少しずつなくなっていってしまう中で、ふと我に変える瞬間。
認識タグを漁るシーンや、ロシア人捕虜を殺そうとするシーンがこの映画のお話的な大事なシーンだと思います。

8人が1人のために犠牲になるかもしれない作戦。
命を天秤にかけたら明らかに釣り合わない作戦でどう折り合いをつけるのか。
そして戦場で失いつつある尊厳を守る・あるいは取り戻すための選択。

ラストの戦い。お話的にはカタルシスはありません。
むしろアパムの最後の選択なんかは、『人間性』というところを焦点に物語を観ていくとものすごく哀しい。
冒頭の作戦で"狙われていた"立場の主人公がラストは"狙う"側になる、というのは、逆説的に「敵も我々と同じ人間で同じ立場である」ということの強調に見えました(冒頭の体験を利用した作戦とかでも全くないので、リベンジ的なカタルシスも違うわけだし)。
それってすごく辛いことを突きつけてる。観る側に単純な快感を与えないから。
しかし「それを噛み締めるべきだ」と観客に追体験させる映画なのではないでしょうか。
そして「死」に対してはアンサーを出さず(というか出せるわけないって言ってると思う)、生き残った人にアンサーを与えるところがお話的には素晴らしい。

それにしてもラストの戦いや冒頭の悲惨な上陸作戦…。
さっきも言った通りお話的にはカタルシスはない………が!
映画として抜群にキマってるんですよね。
スピルバーグ超ノリノリじゃん!
もちろん暴力や戦争を快感にしようとしてるわけじゃあ全くないんですけど、カメラワークやアングルや演出や…あらゆる要素に作り手がノッてないとできないような気がしたんです。
いやー、お話と全く違うベクトルで凄かった!!

音の演出もすごく良かったので、初体験は映画館で味わいたかった。
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