みやび

朝が来るのみやびのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
3.7
子供を産みたくても産めない夫婦、子供を産んでも育てられない母親の双方からの視点が丁寧に描かれている作品。

テンションやストーリーの緩急がある作品ではないが、淡々と静かに、ゆっくり、愛情深く時が流れている。中学生ながら妊娠してしまうひかりの演技もリアルで、ごくごく平凡な中学生を演じ切っていて吸い込まれるように見入ってしまった。
もう大人になったからこそ、若くして産むということがどれだけこの先大変で苦労するかわかっているからひかりの親の気持ちも理解できてしまい、両者のぶつかり合うシーンは考えさせられるものがあった。

浅田美代子さん演じるベビーバトンの代表役は演技が素晴らしい。話し方も間の取り方もさすがであった。こういう人柄の人、いるよねって思わせられる。

ラスト、ひかりから朝斗へのお手紙を鉛筆でなぞり消した文字を解読しようとする佐都子の涙は思わずこちらも泣いてしまった。

「なかったことにしないで。」

どんな思いでその言葉を書き、書いては消して、これから一生会うことのない息子に手紙として残したのか。ひかりの視点のストーリーも劇中で流れたので、ひかりの気持ちを考えると胸がちぎれそうになってしまった。
変わり果てたひかりが栗原家を訪ねてきた時、「なかったこと」にしなかっただろうか?
”広島の母ちゃん“と呼んでいるが、本当に彼女がその母ちゃんだった場合、どうして追い返してしまったのだろうか?
さまざまな葛藤が佐都子にはあっただろう。

ひかりの家族、親戚には息子を産んだことを「なかったこと」にされ、どこにも居場所がなく、息子にも会うことが許されない。息子を育てて、愛しているからこそ、生みの親に合わせることも向き合うことなのではないか?

朝日が昇り光が顔を照らす時、「なかったこと」は終わりを迎え、2人の母は愛する息子と共に朝を迎えた。とても感慨深い作品でした。
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