jam

朝が来るのjamのネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

なかったことになっている人たちが
たくさんいます
その人たちのことを忘れないで

エンドロール後、スタンディングオベーションに応えて
客席で一緒に観ていたキャストと登壇した河瀬監督はノーマイクでこう言った…


深い碧海の波音に揺蕩いながら
この世に生を受けた生命
その羊水の繋がり深き母親は
自らの手で育てることができない息子に書いた手紙を
養父母となる二人に手渡した


親が子どもを探すのではなく
子どもが親を探すための手助けをする
そこで繋がった朝斗と栗原夫妻の縁


朝斗には3人のお母ちゃんがいる
縁を結んだお母ちゃん、浅見さんの援助のルール
子どもにはほんとうの親ではないことを告げること

佐都子は朝斗がわかるようになるまで、
毎年ひかりの手紙を読むと
だからこそ
目の前に現れた女の子が朝斗への愛あふれる手紙の主"広島のお母ちゃん"とは思えず


河瀬組では役積みがあるのは当たり前
撮影数週間前から、家族として生活を共にする

演ずるのではない
その人としてそこに存在する



家族をつくりたい
清和と佐都子の積み重ねた想い

巧と一緒にいたい
まだ幼いひかりの愛

そして自らは母親になれなかった浅見の想い

ベビーバトンの支えで子どもを産み、託す女の子たち
彼女たちはそれぞれに事情を抱え
それでも
なかったこと、にならないように


桜の木の下でこいだ自転車に乗せた希望
新聞配達の自転車に引きずった縋る気持ち


夜の東京タワーが全てを見守る
佐都子の慟哭のわけに思いを馳せて

明けない夜はない
新しく家族になった細い肩を叩く
訪れた朝



今年一月に、トークショーで
辻村深月さんと一緒に登壇した河瀬監督
その時にこの映画のことを聴いて

あの時と私たちを取り巻く状況はずいぶん変わってしまったけれど
それでも伝えたいもの 伝わるものは
しっとりと私の胸に届く


六本木の通りをゆっくり歩いて
ふと見上げれば 東京タワーのあたたかい光

なかったことにされているのかな
でも 時々思い出して
jam

jam