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Daughtersのodyssのレビュー・感想・評価

Daughters(2020年製作の映画)
3.7
【しっかりした作りの佳品】

『ダンスウイズミー』で注目された三吉彩花さんが出ているから、というだけの理由で劇場に足を運びました。

予告編ではそれほどとも思わなかったのですが、そして衝撃作とか大感動作というのではないのですが、案外な佳品でしたね。別の言い方をすると、作りがしっかりしています。

東京は中目黒のマンションにルームシェアして住んでいる若い女性ふたり(三吉彩花、阿部純子)。
ふたりは都会でそれぞれファッショナブルな仕事をしており、収入もそこそこある。
ところが一人が未婚のまま妊娠してしまい、未婚の母になることを決意する・・・というような筋書です。

現代では未婚の母はさほど珍しくなく(作中、東京では現在出産4件に1件は未婚の母だと言われています)、そのこと自体には衝撃性はありません。むろん、同居しているもう一人からすれば仰天なのですが、こちらも『パパのための出産講座』みたいな本(自分が生むわけではないからですね)を読んで勉強を始めます。

この映画はそういうふたりの共同生活や会話、勤務先での仕事などを、きわめて丹念に追っているところが特色です。産婦人科医(大塚寧々)に診察してもらうシーンも何度も出てきます。

出産が迫れば会社も休まなければならなくなる。幸いにして勤務先はこの点に理解があって、マタニティ・ハラスメントなどは全くないのですから、良心的な企業でしょう。

ルームシェアしているふたりは、ごく軽いいさかいもあるものの、基本的には良好な関係を保っています。

そう、これは未婚の母が様々な困難に際会するけれどそれでも頑張って生む、というようなドラマティックな話ではありません。そこがむしろ、現代の東京で未婚の母になるのは実際にはこういうことなんだろうな、というリアリティを感じさせるのです。

むろん、ヒロインたちは恵まれたほうだとは言えるでしょう。冒頭でルームシェアの条件として生活レベルが同じであること、という項目が挙げられています。少なくとも彼女たちは独身でルームシェアという条件でならそれなりの(都心からあまり離れていないし比較的閑静でもある)場所に住むことができ、派手さはなくとも一定レベルの暮らしができる人間なのです。やっている仕事の内容も都会的だし。

実際には、シングルマザーの貧困は現代日本の深刻な社会問題であり、そのために育児放棄といった事件も少なからず起こっています。そしてそういう映画もむろん作られている。『誰も知らない』など。

でも、こういう映画もあっていいと思う。比較的恵まれた女性ふたりが、一方の妊娠という事態を協力しながら乗り切るのです。むろん、この後どうなるかは分からない。もう一方の女性に男ができた、或いは未婚の母となった女性にも新たな求婚者が現れた、といった事態もこの先起こるかも知れません。でも、その時はその時なのです。

とりあえず、人生の一時期を二人がこうして乗り切っていく様子を、丹念に映し出した映画として、本作は十分な存在意義があると言えるでしょう。

また、最後のシーンで地元民のお祭りが出てきます。未婚の母となったヒロインも、子供を通じて近所の人たちとつながりができるかも知れない。子供は人生の新たな段階を切り開いてくれるのです。
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