「自分が無力過ぎて、爆発したくなる」
鬱屈した町、伝統と言えば聞こえが良いが家父長制による抑圧、移民ゆえの差別、物書きへの夢、声も掛けれない気になるあのコとの恋と多感な青年時代に降り注ぐあらゆる壁に囲まれた閉塞感の中で、ノートに言葉を書き留め詩を綴ることで自分を繋ぎとめいた青年が、推しの音楽に出会うことで、高揚し心の在り方を変化させ景色を一変させていく。
見事に"音楽にくらった時の初期衝動"がそのまま映像化されているのには胸が熱くなりますね。
80年代イギリスの社会問題や移民家族の葛藤を盛り込んだ展開は、シンプルな青春音楽物語かと思いきや現在にも通じる複雑性を合わせ持っており、実話を元にした物語であれど自身がインド系イギリス人の監督グリンダ・チャーダだからこそ言葉だけでは描き切れない表現もあり、観ていて厳しいなと感じるシーンもある。
そして初期衝動による"壁を突破していく"だけではなく、青年ジャベドが自ら行動・経験・悩み、考えて、人種・人々の間に"壁では無く橋を作る"という自分の答え見つけていく。
それは結果だけでなく、過程の中で見落とされがちなモノをしっかり見せることに監督の伝えたい思いがあるのではないか。
人種や宗教など打ち破り心を占領する音楽の力を、国を超え世代を超えブルース・スプリングスティーンの歌がもたらす。
でもこの物語は友であったり、恋人であったり、そして自分を気にかけてくれる人たちに実は支えられてたりするというのが良い。
-たぶん消しちゃうはしりがき-
・音楽映画の側面を持つ作品は発信者側であるミュージシャンをモデルに物語が展開するが、本作のようにリスナー側がその発信された音楽に衝撃を受け、心が再生・成長する物語だからこそ、身に覚えのあるより多くの人々の感情を揺さぶる作品になっているんでしょうね。
・本作の1週間前に公開された「ワイルド・ローズ」も“ここでなはないどこか(2作品共にそこはアメリカであった)”を求めるも、今いる場所での在り方を提示し、音楽作品ではありつつもその根幹は家族の再生の物語であった。